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森とともに生きる 十四代目林業家 ドタバタイノベーション奮闘記 第7回

この記事はさとびごころVOL.32 2018 winterよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 

村外山林所有者「山主」が、山林所在の住民「山守」に、森林の保護管理を委託した山守制度。その伝統がゆらぐ時代に、次世代山主が新しい「森とともに生きる」を模索します。

作業道開設のその後

 「さとびごころ」に「十四代目林業家ドタバタイノベーション奮闘記(編集部の方がつけてくれたタイトルで、私がつけた訳ではない)」として連載を始めてから、2年近い月日が流れた。作業道の開設経験を、当時を思い返しながら書いてみる内に、我々をスムーズに林業の世界に導いてくれた岡橋さんのことや、岡橋さんの師匠にあたる大橋慶三郎さんの道の話、そして、我々のルーツである吉野林業の話にどうしても触れたくなった。今回は時計を少し戻して、作業道開設のその後に思いをはせてみようと思う。

 平成23年の春。清光林業での1年間の研修を終え、晴れて谷林業に正式に参加した前田君と柏田君は、緑の雇用の制度を利用して、OJT による研修を行いながら、引き続き川上村高原大前平作業道を開設していた。私は、慣れない補助金制度の書類作成や、当時制度化された森林経営計画の作成を行いながら、現場と事務所を掛け持ちしていた。

 そんなある日のこと。清光林業の山守であり、新しく立ち上がった吉野林業協同組合の監事である松尾光泰さんから「清光が道つけてる白屋の門前山(編集部注・谷林業所有山林)の間伐作業に行くで。おまはんらは2トンダンプで出したり、少し伐り、小伐り、丈取りとかも経験しとったらええわ。何でも勉強や」と何とも断れない提案を頂いた。

追い風を受けながら

 当時は民主党政権の下、森林林業再生プランが発表され、林業には成長産業としての大きな期待がかけられていた。中でも岡橋会長の壊れない道づくりは、林業再生の重要な柱として注目を浴びていた。壊れない道づくりと森林所有者の集約化プロジェクトのモデル事業として、清光林業が谷林業所有の川上村白屋の藤の奥山林に作業道の開設とそれに伴う間伐の事業を始めていた。当時の林野庁長官も視察に来られる等、追い風が吹いていた。

 若手の山林所有者を中心に道づくりに取り組むべく吉野林業協同組合が立ち上がっており、若手を育てていくという機運が盛り上がっていた。岡橋さんをはじめとする清光林業や、その山守である松尾木材の松尾さんが、我々のドタバタ新人チームの研修として一緒に出材の作業に加わりながら学べばよいと、足手まといになる事を知りながら事業に加えてくれたのだ。谷林業は、所有山林に道づくりのプロである清光林業に作業道を開設してもらえることに加え、林業技術を教えてもらえるという大層幸運な機会に恵まれたのである。

ドタバタチーム編成

 雨の多い梅雨の季節だった。川上村白屋地区藤の奥山林の現場。藤の奥山林は、百年を超える杉、桧の林分で、私達が経験してきた大前平山林とは木の太さも、高さも全然違う。いわゆる吉野林業の真髄の一つである長伐期の大径材だ。その間伐と搬出作業。松尾木材が伐採して、清光林業が集材までをして、我々が搬出する。そして、桜井市にある奈良県銘木協同組合の市に出すという事業であった。

 30代半ばの我々を従えた20代の若者の新興のチームが、同世代であるがベテランで技術も兼ね備えた清光林業のチームや、吉野林業と共に人生を過ごされた松尾木材の70歳代の超ベテランチームと一緒に現場作業を行う。決してルーキーとは言えない年齢ではあるが、(プロ野球に入団し、2月のキャンプに参加する様な)ようやく林業の仲間に入れてもらったという安心した気持ちと、これから始まる作業に対する不安と、続く未来に対する期待感の交錯する初々しい気持ちだったのを思い出す。

 我々の主な役割は清光林業が開設した道幅2・5mの大橋式作業道を、伐採現場から10トントレーラーが通行できる川上村東川地区のヘリポートまで、2トンダンプで往復1時間の道程を輸送すること。急峻な斜面に開設された大橋式作業道のヘアピンカーブを何度も旋回しながら運び降りる。

 道幅は2トンダンプ1台がようやく通れる程度。ヘアピンカーブの回転半径は2トンダンプが曲がり切れる最低限しかない。2トンダンプに乗るのも慣れていない。「落ちたらどうしよう。ヘアピンカーブで曲がり切れなくて落ちたら死ぬのかな」。作業道を、木材を満載して走るという事は、とても怖かった。ドタバタチームは、作業の拠点になる広場に停められた谷林業が新しく購入した中古の2トンダンプと、清光林業の2トンダンプにそれぞれ乗り込み、作業が開始された。

大橋式作業道を走る

 座席に座り、深呼吸をし、エンジンをかける。広場から100mほど先で、清光林業の前田さんが乗るグラップルが、ウインチを使って集材を始めている。そのグラップルの所まで、まずは作業道をバックで走らなければならない。スーパーの駐車場でのバックには自信があったが、ぐねぐね曲がった作業道を100mもバックで走るのは初めての経験だ。上手にバックができず、何度も前進と後進を繰り返しながらグラップルの所までようやく到着した。それだけでも一苦労。前田さんのOKの合図と共に、造材された丸太の積み込みが始まる。

 2トンダンプで大橋式作業道を荷物満載で走るのが怖くなって「積み荷はダンプの半分でお願いします」と頼んだ。前田さんがもうちょっと積んでも大丈夫やけどなという表情をされたが、初めてのこと。事故を起こしたら元も子もなく、背に腹はかえられない。

 積み込みが終わり、いよいよ木材を積んだ2トンダンプで作業道を走る。この時は、同世代であるがベテランの岡橋一嘉さんが助手席に乗ってくれた。いざヘリポートまで、約30分のミッションの始まりだ。2トンダンプを4輪駆動に入れ、出発。現場から少しの区間急峻な登りを走る。「この登りはかなり急なので、満載にしたら後ろにひっくりかえるかも知れまへんで」と一嘉さんが笑いながら言う。坂道を運転中にトラックが後ろにひっくり返ったら死ぬよな等と想像してしまう。手には汗がびっしょりだ。 坂を登ると、いよいよ下りだ。ダンプのギアを4駆のローギアに入れる。4駆のローギアでの走行はエンジンブレーキがよく効く。「さらに急な下りは排気ブレーキを入れておくとよいですよ」とアドバイスを受ける。いきなりヘアピンカーブの繰り返しだ。

 大橋式作業道をバランスよく走れる人は、電車のレールの様に皆一様に同じ所を通るので、タイヤの轍がきれいについている。2トンダンプは運転席の下にタイヤがあるので、慣れた人と同じ所を通ると、ヘアピンカーブから自分が飛び出して走っているような感じになる。それが怖いので私の場合はどうしてもカーブの内を走ってしまう。タイヤの位置との感覚がわからないのでカーブの度に車を止めて今どのあたりを通っているかを見ながら車両感覚を確認した。カーブを突っ込みすぎて曲がり切れず、バックしては修正しながら降りる。

「林業やったらあたりまえ」

 四苦八苦の末、ようやく作業道を下りついた。まるで安全装置のないジェットコースターに乗っているようだった。大橋式作業道さえ下りれば一安心。後は走りなれた林道を下り、目的地であるヘリポートまで行くだけだ。

 ヘリポートに着いて、積み荷を降ろすべく、2トンダンプの荷台をダンプさせた。丸太が滑り落ち地面に着いたら2トンダンプを少し前に出せば、丸太が地面につく。ダンプした荷台を戻して輸送作業は完了した。

 ヘリポートから現場への帰り道の道中で、ほっと一息つきながら、一嘉さんの経験談や、岡橋会長が2トンダンプで作業道から落ちた話等をしながら帰った。今思えば何てことのない作業なのだが、本当にハラハラドキドキした。その時の事は昨日のことのように思い出される。

 その後、一人でハンドルを握った私は一日6往復を数日間夢中で繰り返した。数日たった時には、少しは運転も板につき、少なくとも手に汗にぎる事はなくなっていた。作業道を降りて来たときに林道を走っていた土木建設会社のダンプの運転手の人に出くわした。

 「兄ちゃんら、えらい所から降りてきたやないか。おっちゃん、びっくりしたで。怖ないんかいな?」と問われたので、得意げに「いや、林業やったらこんなんあたりまえですがな」と、返しておいた。(つづく)

【谷林業】吉野の5 大林業家のひとつ。中近世以来、現在の王寺町の大地主として山林管理を手がける。2011 年、老舗でありながらベンチャー企業として「谷林業株式会社」と改称。若手人材の育成や、新規事業の立ち上げなどを展開している。奈良県北葛城郡王寺町本町2-16-36 TEL 0745 – 72 – 2036

さとびごころVOL.32 2018 winter掲載

文・谷 茂則(谷林業株式会社 取締役)

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