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森とともに生きる 十四代目林業家 ドタバタイノベーション奮闘記 第11回

この記事はさとびごころVOL.37 2019 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 

村外山林所有者「山主」が、山林所在の住民「山守」に、森林の保護管理を委託した山守制度。その伝統がゆらぐ時代に、次世代山主が新しい「森とともに生きる」を模索します。

架線チームの快進撃

 前回までは2回にわたり、私のプロジェクトに絶大な後押しをしてくれた兼子さんの話を書かせてもらった。今回は連載第8回に遡って続きから進めていきたい。

 作業道についての取り組みが始まり、しばらくして、少し落ち着いた平成25年の秋頃の話。

 谷林業ドタバタチームには、久住一友さん(現在は退社)という高知県の森林組合で架線集材(山に太いワイヤーロープを設置して、伐採した木材をUFO キャッチャーの様に吊り上げて搬出する仕組み)による木材搬出の技能を習得した技術者が入社していた。今回からは、もはや伝説になった久住さんを中心とする架線チームの快進撃の話をしたい。

林業のプロがやってきた

 久住さんとは、今からさかのぼる事11年近く前の平成20年1月に、滋賀県で開かれた里山フォーラムという環境教育系のフォーラムの開催会場に向かうバスの車内で出会った。開始時刻に少し遅れそうなガラ空きのバスの中、初めての参加で勝手がわからず不安な気持ちで同じフォーラムの参加者らしき人に声をかけた。それが久住さんだった。

 当時の私は税理士試験への取り組みが終わり、ちょうど1年が経ったころ。平成19年の夏ごろから始めた王寺町周辺での里山ボランティア的林業活動だけが自分の原体験だった。林業の「り」の字もまだわからず、里山や環境教育に関わることもほとんどなかった。完全アウェーの敵地でのスポーツの試合に行くような心細い心持だった。

 車中では、何を話したかあまり覚えていないが、自分は林業家の家に生まれたとか、久住さんは森林組合の職員だといったことを話したように思う。真面目で実直そうな人だなと思ったことが印象的だ。フォーラムでは、ほとんどが環境教育系の人だったので、同じ林業の世界にいる久住さんは何となく自分の印象の中に残った。その後もフォーラム関係の共通の知人と年に1度位大阪で食事をご一緒するなど、交流が続いていた。

 それから4年後の平成24年4月。久住さんは、谷林業に入社した。前田君、柏田君の作業道チームが動き出して1年。私自身が林業以外の他業務で現場への参加が不確定になってきていた頃、私や、まだ二十歳そこそこの前田君の代わりに、現場を統括管理できる人を探していた。そんな時、数年間勤めた森林組合での日常に停滞感を感じていた久住さんは、若手ばかりで結成されていて不安定な、しかしチャレンジの土壌のある谷林業への参加を決めてくれた。

 入社後久住さんは、前田君、柏田君との作業道チームに合流した。それまでの1年間、この作業道チームは素人同然であった。初めての林業経験者となる久住さんの参入は、今思えば大きな前進であったと思う。その後、搬出した丸太を掴みあげるグラップルという林業機械も購入し、久住さんたちの指導のお陰もあって作業道チームは丸太の伐採や搬出する技術を積み上げていった。

架線プロジェクト始動

 谷林業の山林の多くは奈良県吉野郡の非常に急峻な地域にある。作業道を開設しようと思っても、すべての山林に開設する事は不可能であり、事業体として架線技術を習得する事は必須だと考えていた。速水林業の速水さんからも「ヨーロッパでも架線による搬出はスタンダードで、スイスにはウイッセン、ドイツにはガントナーという架線系の搬出機械を製造する会社がある。吉野でも架線系の搬出システムを是非導入したら良いよ」とアドバイス頂いていた。私自身もその重要性を感じていたし、見様見真似であるが、架線技士の実地研修会に参加もしていた。

 1年程度が経ち、前田君、柏田君の作業道チームも少しずつ熟練度をあげてきた。そろそろ久住さんを中心とした架線プロジェクトを始めようという機運が高まってきた。

 架線技術者が一人いるだけで、すぐに架線搬出ができるわけではない。久住さんが谷林業の山林を方々歩き回り、架線を張るのに適した複数の事業地候補が見つけ出された。その中から、谷林業初の架線プロジェクト事業地として、最も難易度の低い事業地が選択された。西吉野町西日裏にある桑迫山林だ。

 桑迫山林には普段人通りの少ない林道があり、その林道沿いに少し広い場所(土場)があった。林道があることで、トラックでワイヤーロープなどの重い資材を運ぶことができ、人も少ないので、初心者のチームが落ち着いて架線を設置するには条件がいい。土場があるので、搬出した木材をストックしておくのにも都合がよかった。

 事業地が決まれば、次は現場のプランを計画だ。林道を渡して架線を張り上げる為には、林道の手前の斜面と対岸の桑迫山林に、ワイヤーを張る支柱となる立木(林業では専門的に元柱と先柱という)を決めなければならない。桑迫山林の立木を可能な限り搬出するためには、谷林業所有林外の隣接する所有者の山林の立木を借りなければならなかった。

 久住さんのサポートには、当時元中小企業経営者で谷林業に入社していた堀田弘之さんが付いてくれた。林業の世界では一般的に森林施業プランをたてる。堀田さんは、架線を張る事により出材できる丸太の径級や質から材積量や販売単価を計算し収入の試算額をだしたり、架線を張っている期間の作業工程より人件費を算出したり、搬出された丸太の枝を払ったり、販売するのに適寸に小伐ったりするための高性能林業機械プロセッサーのレンタル賃を試算したり、木材を木材市場やバイオマスの発電所に運搬するトラック輸送費を試算したり、隣接所有者さんに協力をお願いしにいってくれたり、補助金を頂く手続きに関してサポートしてくれた。

 架線プロジェクトは着実に進行していった。

山に太いワイヤーロープを設置し、伐採した木材を吊り上げて搬出する架線集材の風景
谷林業に入社した久住さん(左)と吉野さん

雲を掴むチャレンジ

 架線チームの始動が少しずつ進む中、久住さんのパートナーを誰にするのかという大きな課題が残っていた。地元の山守さんに声をかけたりしていたが適任者が見当たらず、困ったなと途方に暮れていたある日のこと。何気なくインターネットを見ていた私の目に飛び込んできたのは、毎年恒例の速水林業の林業塾の開催が決まったという情報だった。

 「行くしかないな。今年は自分が行こう(林業塾へは例年、弊社から誰かが参加するようにしていた)。誰か良い人がいないか、わずかな可能性にかけてみよう」。平成25年9月の林業塾への参加を申し込んだ。

 開催日のこと。少し遅刻した私は速水林業大多賀山林内にある林業塾の座学が開かれている小屋に恐る恐る入った。一番後ろの一番左の席が空いていた記憶は鮮明だ。一番後ろには、林業塾を開催している速水さん等がいる。その前をそそくさと会釈して通りすぎ、席についた。右横に、若くてすらりとした明るくさわやかでやんちゃそうな青年がいるなと確認した直後、座学の講習を受けながら穏やかな昼のまどろみの中に入っていったのを思い出す。

 その日の夜の懇親会の時のこと。速水林業塾の面白みの一つがこの懇親会だ。海山町の山水という海辺の釣り宿を定宿としていて、昭和レトロな畳の大広間で、開催中の三日三晩を深夜まで飲み明かすのだ。自己紹介の場面になった。あの右横に座っていた若者の番になった。

 「千葉県から来たGet Cloud の吉野剛弘といいます」。私はその若者の話に魅かれた。何でも元々はパチンコ屋の店員さんをされていたが、その職業を辞めて林業に挑戦するという自己紹介だった。理由が面白かった。「グーグルアースで日本列島を見ていたら、めちゃくちゃ緑でした。私の様な経歴でもお金持ちになれるかもしれないと思いました。GetCloud は雲を掴む様なチャレンジをするという気持ちを込めてつけました」速水林業塾面白い。こういう若者のチャレンジの場になるんだなと。

 速水林業塾最終日。毎年恒例の、誰かの課題を皆で話し合ってくれるという一日。その年は私が名乗りを挙げた。久住さんのパートナーを探す事も一つの目的にしていたが、始めて参加した林業塾から丸三年経った今の報告とこれからをテーマに話し合った。Get Cloud の吉野さんも話の輪に加わってくれた。話の中で、参加者の一人が「吉野君が吉野林業に関わるって面白いね」と言い出した。それから皆が「吉野君は吉野に行けば良い。架線技術の求人も既にあるじゃん」となっていった。吉野さんが、谷林業を始めとする吉野の山林所有者を味方につけ、名前のとおりの吉野林業地で成功し金持ちになっていくという夢物語が、久住さんのパートナー探しという課題解決と、私の架線プロジェクト推進という課題解決につながった。

 それから2ヶ月後。吉野さんは、谷林業天川村事務所に入居した。当時は私も天川事務所で合宿をしていた。三十代の青年二人の不思議な同居生活も同時に始まった。

※架線チームの話は次号に続きま す

さとびごころVOL.37 2019 spring掲載

文・谷 茂則(谷林業株式会社 取締役)

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