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森とともに生きる 第4回(最終回) 地域と繋がった これからの森づくりを  


この記事はさとびごころVOL.25 2016 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。


吉野林業の一端を担う若手の思いに触れてみてください。
大きな夢に一歩踏み出した久住さんの連載、最終回です。

スイスでの気づきから…ニーズを反映させた持続的な森づくりを考える

 昨年のヨーロッパ視察以来、考えてきたことがあります(本誌24号参照)。スイスのように住民と繋がり持続的に循環する林業を日本で行うことは可能なのだろうか?
ある大学教授は歴史をさかのぼり、こう表現しました。「大きな木が不足していた時代、千利休が細い木で建築する数寄屋風書院づくりがカッコいいという文化を創り出した」。それ以降、吉野の山で植林して細い木を育て始めました。消費者が欲しいものを作るのだから売れる、というものでした。これが本来あるべき林業の姿なのでしょう。
 では現代の林業はどうなのでしょうか? 地域住民や消費者のニーズと合致させられているのでしょうか? 「森林・林業白書」(林野庁2007年)によると国民が森林に期待する機能は、①地球温暖化防止に貢献する役割②山崩れ等の災害を防止する働き③水資源を蓄える働き・・・と続きます。
 木材を売りたい林業関係者と、将来的に環境や暮らしを守る役割を期待する国民。ここを繋げることができたら、暮らしと森が関わったこれからの林業が創れるのではないだろうかと考えました。

自ら実践する小さな林業 スモール・フォレスターの定義

 地域や消費者のニーズを反映させた持続的な森づくり。これはスイスのフォレスターが実践していることです。私は自分がSmallForester(スモール・フォレスター)としてそれを実現・実証するために、今年のはじめに久住林業として個人事業主になりました。
 本場スイスのフォレスターと違うところは、公務員でなく、地域の定義が小さく、自ら実践するという点。それを私はスモール・フォレスターと定義づけることにしました。
 林業に携わって以降、奥深い山中でのみ仕事することが多かったのですが、ここ数年は山から降りて町の人と話す機会を得るようになりました。その中で、今までの自分が慣習で凝り固まっていたことを実感しました。

 「近くの森林が普段から自由に散策できるようにならないか?」「森のようちえんで使える森林があったらいいな」「あえてダメージのある木が欲しい」「DIY に使える小さくて高価すぎない板が欲しい」など。これらの要望に応えながら持続していける森を育てるのが本当の意味で良い森づくりで、価値のある森林なのではないかと考えるようになりました。

地域と森をつなぐ人材育成 スモール・フォレスターズ・カレッジ構想の芽生え

 昨年と一昨年、「チャイムの鳴る森」(※)に協力企業社員として関わってみて、暮らしに森の要素を取り入れたい人がとてもたくさん存在することに気づきました。その人たちが求めているのは高性能林業機械を乗りこなし、生産性をあげる林業ではなかった。人口減少社会、低成長社会に突入し、働き方、生き方を見直す時代になっています。自分らしい生き方、家族に合ったライフスタイルを森林に求めているのです。

(※)チャイムの鳴る森 北葛城郡王寺町から上牧町にまたがる里山で、2014 年5月と2015 年11 月に、それぞれ2 日間にわたって開催されたイベント。「森で遊んで、森で学んで、これからの森を思う」というコンセプトは多くの人の共感を呼んだ。

雑誌に掲載した以外の写真も載せます

林業界の課題解決のために人を育てるのではなく、こうありたいと思い描く将来の地域の為に人の繋がりをつくっていく、そんな学校があったらいいなという思いもあります。「やりたい事」「やれる事」「求められている事」が重なりあった未来像。スモール・フォレスターが増えることで地域と繋がったこれからの森林づくりが各地で展開されることを願ってやみません。

達成したいこと その先にあるもの
 放課後に友達が集まってゲームをするのではなく、「今日は裏山に遊びに行こう!」と森林が身近な存在になったり、休日はショッピングモールやバーチャルの世界へ出かけるのではなく、家族そろって森に入り薪ストーブの薪を集めていたり。人が暮らし、森も育て、いいバランスで人々がゆるく繋がりあって生きていく。森林を共通言語にそういった地域を未来の子どもたちにプレゼント出来たら、こんな未来にしたいという社会を創っていけたら、どれだけ幸せだろうかと思います。
 大きな夢を達成する為に、地に足をつけて取り組むべきことを頑張っていきます。1年間連載にお
つきあいいただき、ありがとうございました。

【谷林業】
吉野の5 大林業家のひとつ。中近世以来、現在の王寺町の大地主として山林管理を手がける。
2011 年、老舗でありながらベンチャー企業として「谷林業株式会 社」と改称。若手人材の育成や、新規事業の立ち上げなどを展開している。
奈良県北葛城郡王寺町本町2-16-36
TEL0745-72-2036

さとびごころVOL.23 2016 spring掲載


追記(2023現在) 
https://kusumi-forestry.com
https://www.instagram.com/kusumi_forestry/

森とともに生きる 第一回 都会生まれの昆虫少年が、奈良で林業に携わるわけ
森とともに生きる 第二回 山から木を収穫する架線集材という技術
森とともに生きる 第三回 環境と経済を両立する自然にさからわない森づくり 
森とともに生きる 第四回 地域とつながったこれからの森づくりを  

さとびごころvol.25

さとびごころ連載

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