この記事はさとびごころVOL.23 2015 autumnよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
先人たちの知恵と努力
育てた木は用途と森づくりの思想によって収穫する時期が変わり、それが三十年後であることもあれば、三百年後であることもあります。そもそも木は山の斜面で育てており、長さが二十から三十メートル、重さは何百から何千キログラムあるので、古来より様々な運び出しの手法(集材や搬出と言う)がとられてきました。何十人で「担ぎ出した」時代もあれば、木製の滑り台「修羅」や木製のソリ「木きん馬ま」で運んだり、馬を使って引きずり出す「馬搬」などを駆使した時代もあります。
昭和になるとワイヤーと木の自重で運び出す「運材索道」や、ブルドーザーで山に道を作り搬出する「路網集材」が始まります。運材索道が後に、集材機の動力で搬出する「機械集材装置(ここで言う架線)」に進化します。その後「ヘリコプター」を使った集材が普及し、現在は吉野材のほとんどがヘリコプターで搬出されています。
欠点を長所に変える架線集材
高知県の北端に近い地域は四国山脈に位置し、地形が急峻で今も架線集材が盛んに行われており、その地域にある大川村で私は架線集材の技術を学びました。八十年生の大きな木がそのまま吊り上げられ、百メートル上空をトラック道の上まで運ばれてくる光景を初めて見た時は圧巻でした。
架線集材の特徴は、山の地形を活かしてワイヤーを張り、木を収穫できること。切り立つ崖や急峻な谷・尾など厳しい環境も「長所」として上手く活かして木を収穫できるのが強みです。また集材後は山からワイヤー類を全て撤去して元の状態に戻すので、環境への影響が限りなく小さいのも特徴です。体力的にしんどい面もありますがコストを抑え搬出できる手法で、材価が低く安定している状況下で再び注目され始めています。一般的に峻な地形の方が架線集材には向いており、緩斜面を有利とする作業道と組合せて使用する事が可能です。
吉野林業の将来を考えると、ヘリコプター集材に加えて他の集材技術も習得しておくと良いと思います。
最も難しいが一番重要なこと
架線集材には、押さえておく点が二つあると考えます。
一つは、危険予知力を身につけること。かつて架線集材は日本中で多くの死傷者を出しており、正しく使わなければ危険な手法にもなりうるということ。安全に作業をするには科学的根拠と現場判断の照らし合わせ、何が危険か予知する事が必要です。
もう一つは架線設計のプランニング。良い森を作れるか否か、経営できる収入を上げられるか否かも全てはここに掛かっています。現状からどういう森を目指し、どんな施業をするか、集材面積や材積、伐採地とトラック道の位置関係、隣接所有者を集約化する必要性、架線ルートの決定、種類(張り方は複数ある)の選択、立体的に可能な設計か、各工程の詳細決定など、複数の項目を洗い出し総合的にベストになる方法を選択し計画を立てます。
たまに聞く「架線で集材すると立木がボロボロになる」や「架線は過伐にしないと採算が取れない」の声は、この計画立案が未熟であるが故の結果を表しています。架線集材は現場技術の指導だけではなく、架線設計のプランニングに重点を置いて進めないと、架線は張れても次世代に繋ぐ森林は育てられないと感じています。
これからやりたいこと
日本の架線システムはキャレッジ(ワイヤー上を移動して木を運搬する機械)が簡素な構造でワイヤーの引き回しが複雑なのに対し、欧州の架線はキャレッジが複雑(多機能)でワイヤーの引き回しが簡単なのが特徴です。例えば、日本の間伐で多用されるダブルエンドレス式架線(通称アベック)は集材機と四種類のワイヤーを使用するのに対し、欧州はタワーヤーダ(集材機とタワーが一体化した集材装置)と二種類のワイヤーで集材することが可能です。当初(昭和三十年代)からほとんど形を変えず機械価格を抑え、足りない分を労働力でカバーしてきた日本と、労働者負担を軽減するために機械開発を重ね、高価で高性能な機械を作り出した欧州という点に明確に国民性の違いが表れています。
新しい物は既存の物の組合せで出来ると考えており、双方を組合せ互いの欠点を補える地域に合った架線システムが出来ないかと構想を練っています。また国内にはない、実地で使える教科書づくりも始めようと考えています。
【谷林業】
吉野の5 大林業家のひとつ。中近世以来、現在の王寺町の大地主として山林管理を手がける。
2011 年、老舗でありながらベンチャー企業として「谷林業株式会 社」と改称。若手人材の育成や、新規事業の立ち上げなどを展開している。
奈良県北葛城郡王寺町本町2-16-36
TEL0745-72-2036
さとびごころVOL.23 2015 autumn掲載
森とともに生きる 第一回 都会生まれの昆虫少年が、奈良で林業に携わるわけ
森とともに生きる 第二回 山から木を収穫する架線集材という技術
森とともに生きる 第三回 環境と経済を両立する自然にさからわない森づくり
森とともに生きる 第四回 地域とつながったこれからの森づくりを