この記事はさとびごころVOL.24 2016 winterよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
ヨーロッパ行きの目的
毎年ヨーロッパ各国で開催される大規模な林業機械展。中でも四年に一度オーストリアで行われる機械展(Austrofoma)は、タワーヤーダ等の架線系の集材機械が多く出展されています( コラム参照)。海外の林業機械に興味があり、吉野林業地で活躍できる機械を購入することが当初の目的でしたが、初夏に「近自然の森づくり」に出会ってから、その先進地スイスの森林を訪ねるのが真の目的に変わっていました。
コラム
近自然という考え方とスイスの森林
「近自然」は「Naturnaher」というドイツ語が語源で「自然に近い(近づく)」という意味があります。人が森に手を加える以上、それは全くの自然に戻りませんが「本来の自然に近づける」ことはできる、という考え方です。自然をよく観察し、その摂理に逆らわない森づくりをすることで、森林生態系の充実(環境)と作業コストの軽減(経済)を両立させられるのです。
スイスの森を案内してもらったのはフォレスターのロルフ氏。スイスのフォレスターは、3年の現場経験を含めた教育システムを受けて習得できる国家資格で、主に市町村に雇用される公務員です(スイスでは全公務員の身分保障はありません)。
最初に訪れたモミだけを植えた薄暗い林(一斉林)では、部分的に伐り開く場所(ギャップ)を作ることで発芽した広葉樹を育てていました(スイスでは家具や建具、薪やチップに広葉樹を使う文化が続いています)。林内に光が入りすぎることでブラックベリー(日本のクズやササのような性質)が繁茂するので、光の調整をして徐々に林相を変化させる手法を観察から見い出していました。他にも実験は小面積で行うこと、施業法を一律に揃えないことが重要だという話が出ました。
またハリケーン被害地では、多くのトウヒとモミの大木が倒れましたが、伐採して販売するのは被害木のみに留めました。「一気に光が入るとタモばかりが生えて他の樹種が侵入できなくなるので被害の無い大木は残した」という理由でした。現在スイスのこの地域では「タモ枯れ」が発生していますが、多数の樹種が育つ環境を作ったことで、タモが枯れても森林が壊滅することはありませんでした。
ロルフ氏 日々の努力
成功事例からは良い所ばかりを見て浮かれがちになりますが、そのための努力を聞けたことは大きな収穫でした。ロルフ氏が一番多く時間を費やすのが山林所有者や地域住民とのコミュニケーション。今回の案内途中に出会ったどの集落の人たちとも笑顔で挨拶や雑談する様子が印象的でした。スイスではフォレスターという職業が、なりたい職業の上位にランキングされていることにも納得です。
他にも、「近自然」の考え方を受け入れてもらえない所有者のところに何度も足を運んでいる話や、イタリアのピザ屋からの薪の注文が多くあるが採算が合わずどう改善するか悩んでいる話、林業の仕事のない夏場に林業会社の従業員の仕事確保のために近自然河川改修工事に予算を引っぱってきていたり、木材販売の市場開拓までしている話を聞きました。
私たちの地域で どう森づくりに活かすのか?
「なぜ切捨て間伐をするのか?」「なぜ間伐は3割と誰もが言うのか?」「なぜ植林後の下草刈りが大変だと言いながら大面積を伐る(皆伐する)のか?」「なぜスギ・ヒノキ以外の木を『雑』と呼び刈り取るのか?」など、「昔からしてるから」「そう教えられたから」続いている慣習に「なぜ?」を投げかけることで新たな考え方、発想が生まれてきます。圧倒的に日本人に足りない思考かもしれませんね。
持続可能な森づくりは森だけを見るのではなく、また一人で成立させられるものではなく、「森林所有者や地域住民、消費者を巻き込んでこそ成立していくこと」をロルフ氏から学びました。
林業の衰退の原因は、木を使う文化がなくなったのではなく、社会の変化、消費者のニーズと森づくりを併せる努力をしてこなかったからというだけなのです。ここを繋げないと持続可能な森づくりはできません。自分だけが得をすれば良いという考えを捨て、全てが得になるような考え方へとシフトすることで、良い森林循環をつくり、良い地域環境をつくり、ひいては良い社会を創っていくことが可能になるのではないかと帰路の機内で考えていました。
【谷林業】
吉野の5 大林業家のひとつ。中近世以来、現在の王寺町の大地主として山林管理を手がける。
2011 年、老舗でありながらベンチャー企業として「谷林業株式会 社」と改称。若手人材の育成や、新規事業の立ち上げなどを展開している。
奈良県北葛城郡王寺町本町2-16-36
TEL0745-72-2036
さとびごころVOL.23 2015 autumn掲載
2016winter
さとびvol.24
さとびごころ連載
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