この記事はさとびごころVOL.53 2023 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
「身の丈起業」、「身の丈しごと」などの取り組みを地味~に行っております。前号掲載の林業家・久住一友さんのエピソードから、身の丈起業のプロセスを読み解く後半です。前回は、「想い醸成期」にて、「何かがおかしい」という想いを募らせ、「共同学習期」にて、仲間と学びながら自らを主体的に成長させていくステップを解説しました。
私は身の丈しごとを「やりたいこと(will)」と「できること(can)」と「求められていること(need)」の3つが重なったところで行うものと捉えています。世の中にはcan やneed を教えてくれる人たちはいるものの、will だけは誰も教えてくれません。「想い醸成期」はこのwill を育てます。「共同学習期」ではwill を起点にcan を増やしつつ、潜在的なneed に触れる体験をします。あとは実際に行動を起こしてみないとneed は顕在化しません。そこで次の段階は、「社会実験期」です。
「何かがおかしい」と思う世の中に対し、自分から働きかけてみて試行錯誤する時期です。久住さんは、起業してすぐに収入が激減しピンチに陥りますので、そこは真似しないでいただきたいのですが(笑)(一方で、そこを乗り越えられるつながりを共同学習期で作ってきたことは着目すべきです)、この期らしい行動が起業1 年後に表れています。林業だけでなく、製材や木工など「木」に関するあらゆることに、大きな儲けにならずとも工夫しながら継続的に仕事として行ったことです。
想いを乗せた社会実験が周囲と影響し合う流れの中から、自然と立ち現れてくるのが次の「事業展開期」です。久住さんを5 年後にまた取材したら、おそらく今を事業展開期の開始と表現するだろうと考えています。彼の本当の事業はきっとこれから始まるのでしょうから。
さとびごころVOL.53 2023 spring 掲載
戸上昭司(とがみしょうじ)
NPO法人起業支援ネットほか(多足の草鞋)
1973年大阪身の丈しごと研究室 #14 身の丈起業のプロセスを読み解く(下)生まれ。神戸、名古屋、福島、釜石と渡り歩き、2015年に奈良に落ち着きました。「理念」と「身の丈」を両軸に、仕事起こし、自分起こし、地域起こしのお手伝いをしています。