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身の丈しごと研究室 #09 『いいや、とにかく続けよう』

この記事はさとびごころVOL.48 2022 winterよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 「身の丈起業」、「身の丈しごと」などの取り組みを地味~に行っております。今回からは、私自身が身の丈しごとをする上でヒントになった情報を紹介していきたいと思います。

 私が「ビジネス書を一冊だけ紹介してください」と言われたら、いつもこの本を紹介しています。よしもとばななの小説『海のふた』です。小説?と呆れないでください。この小説は、まごうことなき身の丈しごとの指南書なのですから。

 主人公のまりちゃんは、東京での大学生活の後、故郷に帰ってきました。海辺の故郷は、思ったよりもずっとさびれていました。「もうこの町の人はこの町に興味をなくしてしまっている」。

 外側から急に押し寄せてきたお金の流れは、町の人たちが考えたかわいい工夫や、小さく大切にしてきたことをどっと流してしまっていました。「もう一回、ふるさとを好きにならないと」。

 彼女は、ここで、大好きな「かき氷屋」を開くことにしました。 彼女が人に誇れるのは、いくら食べてもかき氷が嫌いにならなかったことぐらいだったからです。夢に見たかき氷屋は、実に地味な毎日でした。準備に掃除、肉体労働、氷の発注と管理、洗い物、トラブル対応……。そういう細かいことにひたすら追われることが、つまり「夢をかなえる」と世間で言われていることの全貌でした。

 しかしお店はそこそこ繁盛し、そこそこ充実した日々が過ぎていきます。そんなある日、店に電話がかかってきました。このかき氷屋のアイディアを大きなお店に売って、チェーン展開しませんか、というお誘いでした。しかし返答は……。

「私たちは、ただ、一日のことを一日分だけする暮らしがしたいだけなの。お金は大好きだけど、ありすぎると、困ることもきっとあるんです」

 この小説からは、しごとに対する価値観や信念が、飾らない等身大の言葉で語られます。一人じゃない感覚。人と人、人と自然、人と故人が結びついている感覚。「真っ青な空と山のまなざしを強く感じたとき『いいや、とにかく続けよう』と静かに澄んだ気持ちで思ったのだ」。

 こう思わせる何かが、身の丈しごとにはあるのではないでしょうか。

さとびごころVOL.48 2022 winter 掲載

戸上昭司(とがみしょうじ)

NPO法人起業支援ネットほか(多足の草鞋)

1973年大阪身の丈しごと研究室 #14 身の丈起業のプロセスを読み解く(下)生まれ。神戸、名古屋、福島、釜石と渡り歩き、2015年に奈良に落ち着きました。「理念」と「身の丈」を両軸に、仕事起こし、自分起こし、地域起こしのお手伝いをしています。

さとびごころ連載

戸上昭司

身の丈しごと研究室

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