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種生む花 #01 伝統野菜と七つの風 三浦雅之&陽子

この記事はさとびごころVOL.34 2018 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 

前号までの連載「家族野菜のある食卓」に協力していただいてきた三浦夫妻による、これからの地域づくりを考える新連載です。

「清澄の里 粟」をオープンした頃の三浦さん。

 たった今(この取材の直前)まで、僕たちは自分たちの畑の手入れをしてきたところでした。その畑のある奈良市高樋町で、「大和伝統野菜の復活で地域づくり」を目標に、活動を始めてから20年、それ以前の種をつなぐ活動から数えると、25年がたちました。この間に、奈良の伝統野菜に対する理解はずいぶん進み、最初にイメージしたような「種火」となることができたのかなと感じています。長年にわたる調査研究は奈良県が発行する報告書(編集部注=作成には三浦夫妻が全面的に協力)にまとめられており、一つの区切りができたと言えるかもしれません。

 そもそもなぜ伝統野菜なのか、ということについては、すでに機会がある度に伝えてきたことですが、伝統野菜が残る地域には、これからの宝となるべき文化が残されているという発見があったからです。その宝が、地域福祉や農業振興、伝統文化、生物多様性、コミュニティーデザインなどに反映されていくことが、未来を照らしていくのだと思います。国の地方創生の方針とも重なり、今、垣根を越えた取り組みが結びついてきているという感触も得ています。

 しかしその一方で、就農した人の8割が挫折してしまうという現実もあります。その原因の多くは、人間関係と言われています。移住や就農を促す情報が一見キラキラして見えても、演出が混じってしまう場合もありますし、背景にある地道な部分には光があたりにくいということもあるでしょう。僕たちが「よそ者、ばか者、若者」だった当時、村の師匠から大切なことを教わりました。それは、「土づくりのような経営をしなさい」ということ。そして、すべてにタイミングがあり、早くても遅くてもできないのだということ。これは、自然や農が教えてくれることでもあり、人生や経営の哲学にも通じるもので、今でも僕たちの指針であり続けています。何かを変えようとして勇み足を踏むよりも、粛々とやるべきことをやってきた結果です。そんな僕たちの経験が役にたつのであればと、伝える活動も増えてきました。

 地域づくりというと、いったい何をしたらいいのか? と立ちすくんでしまうことはありませんか。僕たちはいつも、「地域には七つの宝がある」という話をしています。それは風土、風味、風景、風習、風物、風俗、そして風情。これを「七つの風」と呼んでいます。自己実現論で有名な心理学者のマズローは、「自己実現した人の特徴の一つとして自然を尊ぶ価値観をもつ」ことを説きました。アメリカの調査でも、人々の価値観がシフトし、より本質的なものへと向っていることを伝えています。七つの風を見つけることは、それらにつながるのではないでしょうか。ただ、それは僕たちが自分たちの活動をさらに拡大していくため、ではないんです。それぞれの場所で、風や鳥に運ばれた種が芽ばえるように、気付いた人たちによって活動が始まり、必要とされ、おのずと広がるのが一番いいと思っています。(聞き書き 阿南セイコ)

さとびごころVOL.34 2018 summer掲載

文・三浦雅之&陽子

《三浦雅之さんのプロフィール》

1970 年生まれ、奈良市在住、京都府舞鶴市出身。1998 年より奈良県内の在来作物の調査研究、栽培保存に取り組み、大和伝統野菜を中心に年間約 120 種類の野菜とハーブを栽培。 2002年農家レストラン清澄の里「粟」、2009 年粟ならまち店をオープン。2015 年5 月より奈良市との官民協働プロジェクト「cotocoto」を運営。株式会社粟、NPO 法人清澄の村、五ヶ谷営農協議会を連携協働させた六次産業によるソーシャルビジネス「Project 粟」を展開。 株式会社「粟」代表取締役社長 。NPO法人清澄の村理事長 。はじまりの奈良フォーラム プロデューサー 。主な著書に『家族野菜を未来につなぐ』(学芸出版社2013 年)『種から種へつなぐ』( 共著 創森社 2013 年) など。

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