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ルチャ・リブロ的土着人類学研究室 第3回 青木真兵

この記事はさとびごころVOL.34 2018 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 

 ここだけの話ですが、僕は東吉野村に引越してとても健康的になりました。いや、本当ですよ。風邪を引きにくくなったり、偏頭痛にならなくなったり、お肌もツヤツヤになったり。神戸に住んでいた頃の僕は「体が弱い」「不健康」でお馴染みだったのですが、今ではみんなが「元気になった」と言ってくれます。やっぱり美味しい空気、キレイな水、豊かな緑に囲まれた生活は良いですね。でもそれさえあれば万事解決! なのでしょうか。僕はもうちょっと違ったポイントがあるのではないかと思っています。

 先日、建築家の光嶋裕介さんとお話しする機会がありました 。テーマは「生命力を高める場」について。光嶋さんは思想家の内田樹先生の道場兼自宅「凱風館」を建築し、「生命力のある建築」という言葉を常々口になさっています。また僕もルチャ・リブロを「生命力が高まる場」にしたい、そんな風に思っています。ただ光嶋さんも僕も当たり前のように使っている「生命力」というワード、あまり一般的ではないような気がするのです。そもそも「生命力」ってなんだろう。

 東吉野村での生活と、今までの都市での生活を比べた時、一番大きな違いは「生物の種の多さ」です。とにかく虫がたくさんいて、家の中だろうが外だろうが、気にせず歩いたり飛び回ったりしています。町では信じられないくらい大きなクモがいたりしますが、ムカデを食べてくれたり、多分何か良いことをしてくれるだろうと、見つけても特に動じなくなりました。一瞬ドキッとすることはありますが、「お、よろしく!」と挨拶しています。

 この「生物の種の多さ」は、僕に不安ではなくなぜか安心を与えてくれました。都会の虫は生活への侵入者であり、「私たちではないもの」です。しかし僕らが暮らしている古民家はすき間だらけで虫もフリーパス。彼らも「私たち」の仲間入りです。アリもカマドウマもクモも「私たち」です。むしろ僕たちが虫の仲間入りをした、そんな風に思っています。何にせよ僕はその時、自分という人間の前提が「社会的動物」から、生物に変わったような気がしたのです。

現代人は、他人事ばかりでなく、自分だけにかんすることであっても、また独り言でも家族の会話でも、こんな問いかけをしない。__ すなわち、自分はいったい何をしたいのか。何が自分の性格や気質に合っているのだろうか。どうすれば、自分のうちにある最高で最良の部分が十分に活動でき、その成長と開花が可能になるのであろうか。(斜体は筆者)

 (中略)自分の本性にしたがわないようにしていると、したがうべき本性が自分のなかからなくなる。人間としての能力は衰え、働かなくなる。強い願望も素朴な喜びももてなくなり、自分で育み自分自身のものだといえるような意見も感情も持たない人間となる(ミル著、斎藤悦則訳『自由論』光文社古典新訳文庫、2012 年、原著は1859 年、149 頁)。

 一九世紀イギリスの思想家、ジョン・スチュアート・ミルの言葉です。彼は現代人の関心が他人にばかりいき、好みでさえも他人の選択肢の中から選んでいると言います。そのような現代に対する批判として、この文章を書いたのです。彼のメッセージは「全ての問いを自分に向けること」。僕はそのように受け取りました。

生命力が単位の社会へ
生命力が単位の社会へ生命力が単位の社会へ
生命力が単位の社会へ

 確かに人間は「社会的な生き物」です。集団でないと生きていくのは大変だし、「個人の自由は他人に危害を与えない限り保証される」とミルも述べています。そもそも社会がない世界を想像することすら難しい。でも僕は現代の社会をとても窮屈に感じることがあります。あまりに生命力の存在を無視している。社会というシステムが回れば、内実はどうなっても良い。多くの人々がそんな風に思っているかのようです。

 おそらく僕が窮屈と感じる社会は、「一つの物差しで測る」ことをベースに設計されています。人間を「人材」と呼んだり(少し気を使って「人財」と言ったり)する社会。そんなもん社会じゃねぇ。僕の考える「本当の社会」は、生命力が単位です。生命力とは、ミルの言う「自分のうちにある最高で最良の部分」のことです。だから人それぞれ違う。

 ルチャ・リブロは「生命力が高まる場」です。「どうすれば、自分のうちにある最高で最良の部分が十分に活動でき、その成長と開花が可能になるのであろうか」を自分に問いかける場こそが、ルチャ・リブロです。花や草木、犬や猫、虫や鳥。生命力を持った存在である人間も、彼らと本質的には同じです。この自覚を生活の中で日々感じているからこそ、僕は心身ともに健康になったのではないかしら、そんな風に考えています。

ルッチャ

ローカルから普遍性を目指した、人文系私設図書館Lucha Libro のZINE『ルッチャ』。

記念すべき創刊號は、思想家の内田樹先生に「これからの人口減少社会をどうすれば自由に生きることができるか」、Lucha Libro の大家さんの上辻良輔さんに「1950、60 年代の東吉野村の様子」について聞きました。昔を昔と切捨てず、未来を未来と諦めず、ハッピーに暮らすためのヒントが満載!ルチャ・ リブロやネットショップ( https://luchalibro.base. shop/ )、大和郡山の素敵な本屋「とほん」さんなどで販売中。

ぜひ手にとってみてください。

人文系私設図書館Lucha Libro
人文系私設図書館Lucha Libro は東吉野村で活動している小さな私設図書館です。
川のせせらぎを聴きながら、ゆっくり本を読んでみませんか?
開館日:Blog、Facebook にておしらせ
開館時間:10:00-17:00
HP: http://lucha-libro.net/
所在地:奈良県吉野郡東吉野村鷲家1798(天誅組終焉の地石碑スグ)

さとびごころVOL.34 2018 summer掲載

文・青木真兵 人文系私設図書館Lucha Libro キュレーター

さとびごころ連載

ルチャ・リブロ的土着人類学研究室

人文系私設図書館Lucha Libro

青木真兵

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