この記事はさとびごころVOL.42 2020 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
4歳で発達障害の診断をもらい、小学校2年生になった息子へ。
興味があるものを見つけると、とことんハマってしまう。熱しやすく冷めにくい、しかし冷めるときは一瞬で、湯引きしたハモを氷水で締めるが如く、料理が完成すればすぐに次の料理を開始する。前回掲載した、近鉄電車に夢中な様子はすでに昔のこと、今や彼は競馬にご乱心。朝から晩まで(決して大げさな表現ではない)競馬の実況中継をし続ける。時に自ら騎手となって僕にまたがり、直線に差し掛かると猛然とムチを打つのだ。痛い。
僕に妻、3歳の娘まで競馬場のファンファーレを数種類口ずさめるようになってしまった。騎手・競走馬・順位・人気・オッズ・レース名・歴史・実況中継の一言一句、とにかく覚えてしまう。コロナでの自粛中、これらを延々と聞かされ続けた僕は、少し頭がおかしくなりそうだったが、それを察した妻が「お疲れさま」と声をかけてくれた時はずいぶん救われた。競馬禍である。
とはいえ、彼が何かに夢中になることはとても嬉しい。その凄まじい記憶力が発揮される場面に立ち会うことが、この上なく面白いのだ。
発達障害と診断され、何か特別な教育を施さねばと思っていたけど、そもそも人生で初めての子育て。息子にとって何が良くて悪いのかなんてさっぱりだ。比較検証する材料もない。
3歳下の娘は息子とは別人で、息子から得た経験・知識はさほど応用できず、一からの子育てに近い。イヤイヤ期ってすごいね。
兄妹ですら教育のコピー& ペーストができないのだから他人は全く当てにならないのだ。一見無駄に思える知識、学校の成績向上に役立たないこと。そんなことに夢中な息子を見ていると、順調に育っているなと、のんきに構えている。大人になってから、その誰も知らない知識が君を助けてくれる。
まぁ、競馬の知識のこれからは僕には見えないけど、発展させることが君にはできるよ。
ハモ料理ができるなら、他の料理も怖くないでしょ。
さとびごころVOL.42 2020 summer掲載
文・都甲ユウタ(フォトグラファー)