この記事はさとびごころVOL.42 2020 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
畑にも大地の再生を取り入れた現場が数多くあります。
大規模工事の現場としては、石川県羽咋市自然栽培農園、三重県熊野市熊野パイロットファーム、三重県秀明自然農園などが、大地の再生施工をしています。奈良県でも健一自然農園の茶畑で、大地の再生に倣った氣水脈を通したことで、茶葉の収穫量があがっています。
熊野パイロットファームでは、みかんの収穫量があがった事で、専門誌「現代農業」に特集されています(※)。
※ 掲載期間は、2018年10月号から2019年1月号まで。執筆は、里山に暮らす人のベストセラー本『山で暮らす愉しみと基本の技術』の著者、大内正伸氏。わかりやすく絵も添えて解説してあるので、興味のある人はぜひ図書館のバックナンバーなどで読んでみて下さい。
なぜ収穫量が増えるの?
では、氣水脈を通していくと、なぜ収穫量が増えるのでしょうか? 前提となる環境状況として、コンクリート擁壁、三面張コンクリートの河川などが、大地の中での土の呼吸を妨げてしまっている事があります。コンクリート施工した裏側の土壌は、グライ化(土壌中に長期間滞水するところや地下水面が高いところで酸素が欠乏し,鉄分が還元されること)しています。そのため,土壌が青灰色~緑灰色に着色しています。こうした土壌には嫌気性菌が繁殖し、二酸化炭素やメタンガスが発生。このガスがなんと、山の奥深くまで作用していて、どんな自然豊かな山へ分け入っても、同じように痛んでいる事が見てとれるのです。
氣水脈を整えると、雑草も同じように繁茂して大変な事になるのではないかと思っていました。しかし、実際には雑草管理が楽になったのです。僕が手入れしていた茶畑では、生育が悪く且つ雑草が繁茂して薮になりやすい場所に点穴を掘ったところがあります。
点穴は、人体に例えると経絡のツボのようなもので、氣水脈を通すための穴(このケースでは深さ30㎝幅30㎝くらい)です。空いたところに木の枝や木の葉などの有機物を入れます。この結果、茶樹の生育がよくなったのに加えて、雑草がゆるやかな伸びとなったのです。
なぜ雑草がゆるやかに?
雑草の繁茂が無くなることは、大地の再生では次のように解釈されています。ヤブは、植物の根が呼吸出来なくて暴れるように伸びてくるのが原因のようです。氣水脈が通っている場所では地上との風通しが利き、呼吸ができるので雑草はそれほど暴れる必要がなく、視界を覆うようにヤブ化して繁茂しいてる場所は、氣水脈が詰まっているのだと。
大地の再生技術は、地下部の氣水脈と地上部の風通しを繋いでいくという特徴があります。この風通しを作る技法に、「風の草刈り」というのがあります。草や枝が風でしなるときの、曲がる腰のあたりで削ぐように刈っていくと、細かい枝がたくさん出来て、伸びが緩やかになるのです。逆に地面際で刈ると、強い新芽が出てより一層草刈りが大変になってしまうのです。これを、何年も続けていくうちに地面に近く生えるタンポポのような低い植生に変化していくという利点もあります。
畑と田んぼについては、山梨県上野原市に大地の再生研究所の圃場がありますので、見学も随時受け付けしていますよ。
次回は、いよいよ防災、土砂崩れの予防についてです。お楽しみに!
さとびごころVOL.42 2020 summer 掲載
寄稿 西尾 和隆(環境再生活動家)