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山と今日から始まる物語 #12

この記事はさとびごころVOL.49 2022 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 

KUBERU プロジェクト 

 長引くコロナ禍の中、平和の祭典である冬季オリンピックを楽しんだのも束の間、ロシアがウクライナに侵攻するというニュースが世の中を騒がせている。対岸の火事のように考えたいが、燃料の高騰や、不安定化する経済など我々の生活の行く末に不安を喚起する。グローバル社会の便利さに依存しながらも、グローバル社会の脆弱さの煽りをくらう。可能な限り自分たちの責任下において自立自走できる生活体制の構築の必要性を改めて強く感じている。 

 そのために食やエネルギーを自給できる体制の構築は、大きなテーマだ。我々日本人は、江戸時代鎖国下において世界に誇る三千万人の人口を養った経験を持つ。その裏側を支えたのは地域の自然資本をフルに利活用し食やエネルギーを自給した循環体制だ。地域の里山ではクヌギやコナラなどの広葉樹林を15~30年の周期で育て、伐採し、薪炭や肥料に利用してきた。山の循環とそこから生み出される産物は、町で経済価値がつけられ山間部の暮らしを支えた。この循環体制とその体制を築いた人々のバトン渡しは世界に誇るべきものだったのではないかと思う。

 ものすごく昔のことのように感じるが、その循環体制は今から60年ほど前、昭和三十年代までは比較的あたり前にあった。そして、高度経済成長期の燃料革命をきっかけに森からの産物を受け入れるインフラが消え、町から姿を消した。

 簡単ではないがその循環体制を取り戻すことが、自立自走の生活体制の構築につながると考えている。大和森林管理協会(以下、大和協)では、そのための大きなきっかけ作りとして、地域の森林をエネルギー供給源にするためのインフラを地域社会に普及するためKUBERU プロジェクトを立ち上げた。具体的には、薪ボイラーや薪ストーブを地域社会に普及する。森林管理団体が行うから薪の供給体制の整備もセットで行う。地域の森林内で価値を失い眠っている立木から薪を生産し、エネルギーとして利用する。薪に価値がつく仕組みが出来ることで、立木が構成する森林にも価値が戻る。持続可能な森づくりを考える大和協フォレスターが関わることで、持続可能な森林の循環体制も生まれる。森林とエネルギーの複合循環は自立自走の生活体制の構築に繋がる。

 そういう循環が薪を焚べる一人の行動から始まるという願いを込めてKUBERU と名づけた。薪ボイラー製造会社から転職してきた小島忍さんがKUBERU プロジェクトのキーパーソンとなり、一昨年(2020年)秋より薪ボイラー、薪ストーブの販売を始めた。この春からは、川端康仁さんも参加し、薪づくりのプラットホーム構築に取り組んでいる。

 しかし、まだまだ微力でニッチな取り組みだ。薪づくりをするための原木の収集体制の構築のためには、地域の森林管理体制を組み立てなければならないし、地域で林業に取り組む人の存在も必要不可欠だ。地域の森林所有者が行っている森林管理との連携体制も必要だ。顔の見える個人名で丁寧につなげる連環系の構築が重要である。

 この十年来、日本国内では同じ趣旨で再生可能エネルギーの固定価格買取制度(通称FIT 制度)が創られ、全国的に次々とバイオマス発電施設が出来上がってきた。非常に大掛かりで経済性が高く「羨ましいな」と思う施設たちだが、経済の視点だけでは本当の意味での循環体制の構築にはつながらないようだ。

 発電業者は国内での燃料供給リスクに備え、港の近くに発電所を建設するし、供給ができたとしても地域の森林資源は収奪され、はげ山が増える結果もあるという。

 万事がバランスなのである。バランスよく、自然資本を地域社会に取り入れる連環系の構築KUBERU プロジェクトの役割は大きい。

 これから始まる未来、子供たちが過ごす数十年後の未来を考え、安心安全な地域循環圏を、自分たちの手でデザインし、自分たちの手と責任で創っていきたいと思う。(つづく)

さとびごころVOL.49 2022 spring掲載

文・谷 茂則(一般社団法人大和森林管理協会)

さとびごころ連載

一般社団法人大和森林管理協会

谷 茂則

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