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山と今日から始まる物語 #13

この記事はさとびごころVOL.50 2022 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 

フォレスターとお金と会計

 今初夏、奈良県フォレストアカデミー(以下、アカデミー)で講師の仕事を受けることになった。アカデミーは、スイスのフォレスター制度などをモデルとした新たな森林環境管理を担う人材の養成機関として知事の肝入りで始まった画期的な取組みである。アカデミーの卒業生は奈良県庁の職員や民間の事業者に所属し、各地でフォレスターとしての業務に取組む。これから活躍するフォレスターの方々の講師という立場で未来のフォレスターの育成に関わることは非常に光栄なことである。

 その中で今回、私が担当するのは会計の分野である。本来であれば、専門の税理士など、その道のスペシャリストが担当すべきだと思うが、私に依頼があった。

 私は、谷林業も含めた家業に関わってからお金や会計のことで随分悪戦苦闘した。私立文系大学出身の私は、就職活動の際、銀行などのお金に絡む業態は避けた。幼少期から地元では「家の大きなお金持ち」と言われ続けたので「お金」というものに強い抵抗感を持っていた。就職活動に夢破れ、アルバイトで谷林業に拾われた。ある日、父親から「商工会からこんなハガキきてるで」と簿記3級講座の案内を手渡された。毎週2日1か月間仕事終わりの、奈良市の商工会に通った。その講座がとても面白かった。青春期のモラトリアムの中で正解のある簿記という処理システムの勉強はとても気持ちよかった。以来、会社の会計にもとても興味をもった。

 当時、一般化しつつあった会計ソフトを導入し、関係する会社の経理処理に没頭し、谷林業や関係する山甚不動産、山甚醤油という会社の経理処理をした。その結果明らかになった会社の決算はネガティブなものだった。

 借入金の金額は大きく、バブル期に借入れたお金の支払利子や借入の返済は資金繰りを圧迫した。家業を支えてきた立木の販売収入は、みるみる減っていった。父親からは谷林業のような大規模森林所有者にとっては相続税の問題も大きな課題になると聞いていた。不安が極まって父親世代の番頭さんに頼んで顧問税理士に相談にいった。「あんたとこの醤油屋は100円で作った醤油を80円で売る会社や、でもな、あんたのところからしたら蚊にさされるみたいなもんや」「相続税の問題もあんたのところからしたら何とでもなるんや」当時顧問税理士の齢は八十代にさしかかっていた。「このままではダメだな」。

 近所の人に紹介してもらった大阪で一番大きな税理士事務所日本経営に会社の健康診断をしてもらった。診断結果は、相続税試算額約25億円という衝撃的な数字と「このままいくと相続破産します」というメッセージだった。日常の経営の課題に加え、相続税の課題も大きく加わった。森林の相続税評価の問題など、様々な課題にぶつかった。日本経営は経営や資産に精通していて一般的な問題の解決にはとても協力してくれた。それでも、資産ボリュームとして最も高い森林・林業関連分野となると素人のような状態だった。全国的に森林林業分野の会計家を探したが、皆無に近かった。

 これはまずいと自分自身で会計の勉強を始めた。所得税や相続税の知識の必要性を感じ3年間かけて税理士資格を取得し、相続税の評価を考えた時に必要だと森林評価士の資格も取得した。

 約10年かけて会社の整理を行って、借入金も適正額に収まり、相続税対策にも取組み事業承継の準備も進めた。さらなる懸案事項である、1500haにも及ぶ所有森林を舞台にした森林管理や林業経営に取組むところまでこぎつけた。

 お金のことに翻弄された約10年の日々。その頃、こんな税理士さんや、林業関係者がいたらよいなと思い続
けた。勉強して解決してからは、いつか私のようなことで困る森林所有者を助けてあげたいなと思った。私も含めてそんなフォレスターが一人でも多くいれば良いなと思ったことを思い出す。そんな頃のことを懐かしく思いつつ、それを実現させる立場に立たせてもらえることを感慨深く思う。私に頼んでくれたアカデミーに感謝しつつ真摯に取り組みたいと思う。

さとびごころVOL.50 2023 summer掲載

文・谷 茂則(一般社団法人大和森林管理協会)

さとびごころ連載

一般社団法人大和森林管理協会

谷 茂則

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