この記事はさとびごころVOL.33 2018 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
片上醤油、片上裕之です。今回は第7話。いよいよ発酵の事あれこれについてお話しします。
発酵の事って言っても小噺では荷が重いのでさらっと行きます。で、お題は発酵と酵素。書いていたら長くなってしまったので2部構成です。その第1部を。
発酵食品が体に良いとか、何とか酵素で体の毒素がどっさりとか、毎日耳にしている言葉ですが、でもそもそも発酵って何でしょう。私なりの定義は「食品に微生物が働きかけてより美味しくなった」とき発酵したと言えると思っています。不幸にして体に良くないものができてしまったり、美味しかったものが美味しくなくなってしまったときは「腐ってしまった」と…。食品に微生物が生える(働きかける)ことは同じです。その結果、たまたま、できたものが私たち人間に好ましいものであるときに「発酵」なのです。
そう、発酵と腐敗、両者本質は同じで違いは紙一重なのです。考えてみてください。ブドウの果汁がブクブク泡立ってしまった。自然に泡立っているようなものを最初に飲んだ人は勇気があったと思いませんか? で、これが美味しくておまけに気持ち良くなっちゃう。コリャ堪らんというわけで、ワインはそうやって始まったと思います。発酵とは偶然の贈り物が始まりだし、その偶然を再現しようとする努力、技術が醸造です。
ところで、その美味しい発酵食品を作ってくれる微生物ですが、彼らは誠に小さくて、それこそ手も足も口も歯も消化器官もありません。そんな彼らがどうやって活動するためのエネルギーを取り込むのでしょうか? 彼らは水に溶ける形になった糖分、それももっとも単純な形になったブドウ糖や麦芽糖しか摂取できません。ブドウ糖が豊富なブドウ果汁はそのまま酵母が繁殖できる稀有な食物なのです。
ですからワイン醸造はもっともシンプルな形です。発酵の形態がシンプルなだけ原料のブドウ果実の出来栄えに影響されやすく、だからヴィンテージが重視されます。ブドウ果汁に酵母が繁殖してアルコールが生成され、ワインになる。それを飲んで気持ちよく酔える。ブドウのない地域は悔しいですね~。何とかして酔っぱらって気持ちよくなりたい。さてどうするか、第2部に続きます。
さとびごころVOL.33 2018 spring掲載