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種生む花 #04 在来作物を巡る旅《十津川村》 三浦雅之&陽子

この記事はさとびごころVOL.37 2019 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 

古い品種である「におい米」の藁は長く、しめ縄の材料としても重宝されてきた。
「玉置神社のしめ縄の為にも栽培を続けてきた」とお話ししてくださった
内原集落で農業を営む西村さん。納屋で大切に保管されてきた種籾は十津川村役場でも
大切に守られていくことになった。

 日本一大きい村として知られる十津川村は、奈良県南部、紀伊半島の中央に位置し、村の96%が山林。 急峻な山々、陸の孤島と呼ばれるほど山深い厳しい環境の中、村の方々は「一致団結・不撓不屈・質実剛健」という代々受け継がれてきた十津川精神で自然と共に生きる知恵と技を大切に人と人がつながりあう豊かな暮らしが営まれています。

 今回の旅では、谷瀬、内野、山天、内原、重里、出谷という6つの集落にお伺いさせていただき、トウナと呼ばれる4 種類の「高菜」、「地きゅうり」、「ネ ギ」、「チシャ」、「トウガラシ」等々、数々の在来作物との出会いに恵まれました。

十津川村を含む奥大和を知り尽くされている奈良県地域振興部次長の福野さんと十津川村役場の阪さんのアテンドで一泊二日の旅。山天集落の皆さんに十津川村の食文化について教えをいただく。十津川村は広くて深い。

 中でも印象的だったのが「におい米」と呼ばれるめずらしい香米の一種。非常に高価な米として知られるインドのバスティマ米は麝香の香りに例えられますが、十津川村の「におい米」はバスティマ米とそっくりの香りを有しています。郷土食の茶粥に一つまみ加えることで香ばしい香りが広がり、本物の茶粥の味を知る人にとっては欠かせない食材です。

 かつては村内の各集落で盛んに栽培さ れていた「におい米」も栽培農家は減り続け、一軒のみが栽培を続けている状況で、在来作物を受け継いでいく期間は限られていることをあらためて意識させられた機会ともなりました。内原集落では2 年前に途絶えた「におい米」栽培でしたが、大切に保管されていた種籾を村役場でも保管されることになり、先ずは一安心。

 地域の文化遺産といえるこの種籾が今後、どのように活用されるのか楽しみに見守りたいと思っています。

さとびごころVOL.37 2019 spring掲載

文・三浦雅之&陽子

《三浦雅之さんのプロフィール》

1970 年生まれ、奈良市在住、京都府舞鶴市出身。1998 年より奈良県内の在来作物の調査研究、栽培保存に取り組み、大和伝統野菜を中心に年間約 120 種類の野菜とハーブを栽培。 2002年農家レストラン清澄の里「粟」、2009 年粟ならまち店をオープン。2015 年5 月より奈良市との官民協働プロジェクト「cotocoto」を運営。株式会社粟、NPO 法人清澄の村、五ヶ谷営農協議会を連携協働させた六次産業によるソーシャルビジネス「Project 粟」を展開。 株式会社「粟」代表取締役社長 。NPO法人清澄の村理事長 。はじまりの奈良フォーラム プロデューサー 。主な著書に『家族野菜を未来につなぐ』(学芸出版社2013 年)『種から種へつなぐ』( 共著 創森社 2013 年) など。

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