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【企画取材】森づくりは地域づくり 人工林の皆伐跡地に、広葉樹の森を育てよう 「木の恵みと生きる陀羅尼助の郷、天川村の豊かな未来」プロジェクト事業 その1

この記事はさとびごころVOL.37 2019 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

山間を通りかかるとき、森林が皆伐されている風景を見ることはありませんか?人工林の木材を収穫する皆伐は、林業の行為として否定されることではありません。ただ、伐採跡地が放置されることは大きな社会問題になってきています。今回はそんな皆伐跡地の再生に挑戦するプロジェクトをお伝えします。

現在も伐採が進行中の現場。人工林の伐採跡地は各地で大きな社会問題になっている。この天川村の現場では、持続可能な広葉樹の森づくりを目指し、地域の未来を描く。

陀羅尼助の郷、天川村の豊かな未来プロジェクト

 持続可能な明日の奈良の森を考えるとき、かつての拡大造林施策によって造成されたものの、今や経済的価値を失いつつある広大な人工林の活用を考えることは大変重要です。

 今回は地域の産業発展や豊かな未来を目指し、人工林皆伐跡地に、広葉樹を中心とした豊かな森づくりを目指す天川村の取り組みを紹介いたします。

修験道の開祖役の行者が製法を伝えたとされる陀羅尼助の製造は、天川村の伝統産業。ただ、現在は原料のオウバク(キハダの樹皮をいで乾燥したものの生薬名)を、ほとんど県外から調達している。今回のプロジェクトは、天川村での原料供給を目指す。

期待していた収益を生まなかった人工林

 天川村洞川地区の温泉街から少し山間に進んだところにその皆伐跡地があります。

 伐採される前はスギヒノキの人工林でした。土地所有者の洞川財産区と立木を育てる造林者が異なり、契約した年数を経過した時点で立木を販売して収益を分配する「分収造林」という契約に基づいて、植林後60年以上の長い年月にわたり、立木が育てられてきた森林でした。

 この分収契約が平成29年に満期を迎えたため、契約通り立木が販売され皆伐されることになったのです。この立木販売においては、想定されていた期待を大きく下回る収益しか得られず、土地所有者の洞川財産区は愕然としました。

地域の歴史から木の恵みを再び考える

 1950年代後半から始まった拡大造林施策の波はこの地区にも押し寄せ、山村地域の働く場と経済発展を牽引する人工造林への期待が高まり、先人たちは労をいとわず植林に取り組みました。ところが、その苦労がようやく木材として活用出来る大きさに育ってきた今、木材価格は下落してしまい、儲けるどころか立木を伐採搬出する経費すら満足に捻出できないような状態になってしまいました。

 このような現実から、洞川財産区では、地区の未来のために歴史を振り返ろうと考えました。

 洞川地区は1300 年前から修験道の聖地として栄え、森と木の恵みを巧みに活用しながら生活してきました。中でも、今も多くの人々に愛される陀羅尼助というこの地域特産の生薬は、キハダの樹皮を煮詰めて作る胃腸薬で、現在も多くの方々に愛用されています。昔は木の恵みを木材だけでなく食用、薬品、繊維、燃料など身近に豊富にある資源として活用されていたことがよくわかります。

 地域の歴史に立ち戻り、地域の強みを活かした持続可能な森づくりを行うためには、伐採することでしか益を得ることのできない木材生産のみを主目的とするのでなく、多様な木の恵みを享受できる広葉樹の森を育てることが大切であると考えるようになったのです。

キハダは、ミカン科の落葉性樹木。外側から2 枚目の樹皮(中皮)は鮮やかなの黄色で、乾燥させると生薬のオウバクに。オウバクにはベルべリンを始めとする薬用成分が含まれ強い抗酸化作用を持つと言われる。植林から20 〜30 年で樹皮の収穫期を迎える。

森林整備事業が使えない?

 伐採跡地に植林し森林を育てる場合、森林の公益性から国や県が「森林整備事業」として、その経費を補助する制度があります。

 村や財産区では、今回のキハダを中心とした広葉樹の森づくりの取り組みにも、当然この補助事業が使えると考えていました。しかし、「森林整備事業の窓口である県の担当からは『キハダは補助の対象樹種にならない』との回答が返って来ている」と、当時、県職員として地域振興部で天川村の地域支援を担当していた筆者に相談がありました。そこで自身でも県農林部の担当に確認しましたが、「キハダの植栽は樹皮(薬品の原料)の収穫が目的なので補助の対象にはならない、果実の収穫が目的の柿の木を植えるのに森林整備事業が使えないのと同様の考え方。当該事業は木材の収穫を目的とした森林整備を補助対象としている」との回答でした。

 その他、植栽本数の下限値、苗木の価格等々、手づくりでこの地区の特色ある広葉樹の森づくりを考えている今回の取り組みを、現状の森林整備事業で実施することは、かなり難しいという印象を受けました。

 森林整備事業は公的な支援であり、無条件に全てを支援することは困難だとは思いますが、大金を投資してスギヒノキを再度育てても収益が見込みにくい林業の状況下、地域、地区、所有者などが描く多様な森づくりにフレキシブルに対応できる支援策を講じないと、伐採跡地の放置が増え森林の荒廃が進むのではないかと不安を感じました。

心強い仲間と出会う

 補助金を受けずに、洞川財産区が自力で事業を推進することは大変困難です。キハダを中心とした広葉樹林を…との夢は暗礁に乗り上げたかに思われました。その頃、RE:KIHADA プロジェクトというキハダ活用の啓発イベントを推進している農業生産法人ポニーさんとのご縁を得ました。

 お誘いを受け参加させていただいた山添村でのイベントでは、生薬としてのキハダの重要性がよく分かり、今不足するキハダの資源と収穫する技術者不足などの課題も見え、キハダの将来性も強く感じる事ができました。「洞川は何が何でもキハダを中心とした広葉樹の森にしないと!」事業実現への想いは益々盛り上がりました。

筆者が参加したRE:KIHADA プロジェクトのイベント
農業生産法人 有限会社ポニーの里ファーム
高取町で、薬草の6次産業化、農村健康観光ツーリズム、農福連携をキーワードに、若者・高齢者・障がい者の雇用を促進する取り組みを通して、休耕地の解消や町の課題に取り組んでいる。
2012 年からトウキの栽培に取り組み、薬事法上で農産物とされる葉を使って商品開発を進めてきた。また、RE:KIHADA プロジェクトでは、輸入に頼るオウバクの国産化の推進と、廃棄されていたキハダの芯材の活用のため、トレーやコースターなどの木工製品を開発、キハダの可能性を広げようと考えている。

一筋の光

 そんなある日、昨年7 月のことです。WEB 検索で「農林水産みらい基金」という事業コンペを発見しました。地域の未来を築くための農林水産業を推進しようとする会社の事業の9 割を支援してくれる事業コンペです。「これしかない!」これを「村の一般社団法人フォレストパワー協議会(本誌でも度々紹介している法人)の事業として、応募してみませんか」と、すぐさま天川村に投げかけました。そして村とともに、猛スピードで計画書作成に取り組みました。応募締め切りは7月末。時間がないにも関わらず、村も素早く対応され、村長、財産区長の承認も得て、申し込み期限内にエントリーすることができました。さて、このコンペの行方はどうなるのでしょうか?(次号に続きます)

文・杉本和也 奈良県森林総合監理士会 代表

さとびごころVOL.37 2019 spring掲載

RE:KIHADA プロジェクト

さとびごころ企画記事

キハダ

人工林

天川村

有限会社ポニーの里ファーム

杉本和也

農林水産みらい基金

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