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日本らしさの「Yourself」 藤川拓馬さん(株式会社維鶴木工代表)風は奈良から ~さとびごころ×七つの風~ #08

この記事はさとびごころVOL.49 2022 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

三浦雅之&阿南セイコがゲストをお迎えしてインタビューする連載

GUEST 藤川拓馬さん(株式会社維鶴木工代表)

HOST 三浦雅之・阿南セイコ

藤川拓馬さん。1990 年大阪府出身。2017 年、東吉野村に移住し、椅子に特化した維鶴木工を開業。2021 年株式会社に。自ら開発した椅子のDIY キット「Do kit yourself」が、2021 年のグッドデザイン賞、2022年にはナントサクセスロード大賞を受賞。日本の伝統的なものが好き、椅子が好き。考えること、工夫することが豊かさだと語ります。

たまたまの東吉野

阿南:椅子の木工キット「Do kit Yourself(以下DKY)」がグッドデザイン賞やナントサクセスロード大賞受賞に、お子さんの誕生(取材時2ヶ月)と、おめでた続きの藤川さんが今回のゲストです。

三浦:僕はいつもたくちゃんと呼んでますので、今日もそうしますね。早速ですが、なぜ開業地として東吉野村を選んだのか伺えますか。

藤川:一言でいうなら、工場があったからなんです。もともと大阪出身ですが、独立するときは「田舎がいい」っていう思いがあって、まず桜井市に来てから1年後、「もっと山のほうへ、もっと材料の近くへ、もっと吉野の文化に触れたい」と、いろんな人に声をかけて探しました。オフィスキャンプ東吉野にも相談に行きました。そこでたまたま、この物件の大家さんがふらりとコーヒーを飲みに来られていて…。なんと「あ、うち空いてるよ」って。1週間後には契約してました。ですから、「東吉野に住みたい!」と思って来たわけではなかったんです。それが2017 年でした。

三浦:本物の人あるあるですね。前回ゲストの入江透くんも土地から呼ばれたと思うんだけど、たくちゃんもそれっぽいなあ。

阿南:そもそもですが、木工をやろうと思ったのはなぜ? それに、木工をやる人って広葉樹を扱う人が多いんですけど、あえて奈良の檜をお使いになっているわけは…。

藤川:はい、僕のアイデンティティーに関わる話になります。木工をやろうと思ったのは、単純に父親が大工だったこと。家でいろんなものを作ってくれた。何でも作れる、何でも教えてくれるところがすごく楽しかった。「かっこいいなあ、僕もやりたいなあ」と思いながら育ちました。それで高校も専門学校も建築系でしたが、やっぱり自分で作りたい!という思いが強くて、木工の世界へ。卒業してからは大阪の木工の会社へ就職。その後2社を経て、26歳で維鶴木工を開業。学生の頃から独立は考えていました。

 昔から社寺仏閣とか、日本の文化っていうのがすごく好きで、日本らしいものをつくりたいと思っていました。椅子を作るということを初めからそんなに確信はしてなかったですけど、もともと、椅子が好きだったんです。かっこいい椅子をつくりたいって。木工をやっていくうちに、椅子が一番難しいってことがわかってきた。タンスは手作りでの作り方っていうのが確立されていますが、椅子は機械生産のマニュアルしかないんです。

吉野檜に一目惚れ

藤川:椅子を作りたいと思っていたところへ、工場を探す中で奈良県に来て、吉野の檜っていうのを初めて見たんです。それまでは僕も広葉樹で考えていました。でも、吉野の檜を見たとき、存在は知っていたものの、ちゃんと見たのは初めてで、こんなに綺麗だったなんて!と一目惚れしました。色が綺麗だし、何よりも触ってわかるくらい他の檜と違う硬さ。これは、椅子が作れそうだと。すごくわくわくしたんです。檜って、いかにも日本の木じゃないですか。これでもし椅子を作れたら、めちゃくちゃ面白いんじゃないかと。

阿南:それでもって、偶然ながら開業した場所が東吉野(檜の産地)!

藤川:そうなんですよ、東吉野は吉野の中でも檜が綺麗だと言われていますよね。住んでから知りましたけど。

三浦:へえ!僕は妻が東吉野出身でありながら、今まで知りませんでした。

阿南:他にも、ここに住んでからの気づきとか、ありますか。

藤川:生活としてはめちゃくちゃ変わりましたよね。僕は大阪のニュータウンのようなところに住んでいた。近所づきあいもあまりなく。お祭りもなかった。で、こっちにきて、お祭りはあるわ、隣の家の人がガラッと扉をあけて入ってくるわみたいなつきあいが始まったときに、「あ、人間らしい生活だなあ」って感じたんですよ。それと、日本の文化が残っているということに関しては、気づきが多いんです。こないだも、長火鉢をもらってきたんです。「こんなん、いるんか?」って言われましたけど。それに、結構最近まで、炭を作ってたらしくて、「わあ、炭を家で作ってるんだー」と思って。餅つき機も足踏みのすごいのがあったり。かまども全然残っていたりする。それらが僕には、宝の山に見えるんです。それをどう使っていたのかを知ってる人がまだいるということがすごいこと。本でしか読んだことがないのに、それが普通に生活の中で「使ってたよ」っていう話を今聞ける。祭りの起源、山の話。楽しくてしかたないですね。それを、生々しく受け継ぎたいなって思うんです。

三浦:この連載のテーマでいうなら、風物にあたると思いますけど、同時に風土にもリンクしてる。東吉野、檜、日本の民具としての椅子。そこが全部重なって。今日の話は、東吉野でされている意義を誰にでもわかりやすく伝えることができる物語でもあります。

吉野檜の骨組みに紙紐の座面を編んで作るDoKitYourseif。
作り方を動画で配信し、購入者が自分で組み立てる。

自分で作り、直して使う

阿南:ではそろそろグッドデザイン賞受賞のお話を伺いましょうか。受賞したDKY が生まれた背景について、お聞きしたいです。

藤川:シンプルなきっかけとしてはコロナです。2020年4月に、初めて緊急時代宣言が出て、僕らは宿泊関係の施設の家具を作っていたときでしたが、工事がストップして家具も入れられなくなりました。そのときに「何かできないかな」って思ったんです。

 「家でできることってなんだろう」と。家なら何時間でも使える。じゃあ、通常のワークショップでは無理があるような本格的な椅子がつくれるじゃないかと、思いつきはそこから始まりましたね。デザインも浮かんできました。オーソドックスなものがいいと。

阿南:DKY のデザインを見て、シェーカー家具を連想したんですけど。

藤川:そうです。ルーツはそこ。シェーカーの人たちは、自分たちのものを自分で作ったじゃないですか。作りたかった日本らしい椅子とつながりました。日本の昔からの道具って、例えば障子のように、みなさん自分で手入れして、直してましたよね。そんなふうに、自分たちで作って、直して、使い続けていく、何代にも渡っていく、そういう道具であるべきだと僕は思ったので、そのためには、メンテナンスの方法を職人が教えてあげないといけない。それが、この椅子ならできる!と思ったんです。

 このキットは白木仕上げ。あとは、使う人がお好きなように。その「好きなように」の部分を考えることが一番大事だと思う。今の人たちは、どうしても工夫ができない。目の前にバナナがあったとき、それを食べることはあっても、それを育てようという発想にまでいかない。本来は、それを育てるためにどうしたらいいのか、考えることこそが工夫で、そういう工夫ができるほうがよっぽど生活が豊かになると思うんです。そういうのを体験してほしい。

 もうひとつが、やっぱり吉野の檜を知ってほしい。檜風呂という言葉は知っていても、吉野の林業って何かということは知られていない。それは世界に誇るほどのことだと思うんですよ。持続可能な資源づくりと言われている世の中で、そんな林業がこれから間違いなく必要とされてくる、それを日本人が知らない…それってどうなのか。だからって、日本中に知らせるなんて僕一人ではできないこと。でも、少なくともこの椅子を作る人は、そういう木があるんだ、そういう林業があるんだと知るきっかけになってほしい。

「昔」とは、僕らの「宝もの」。
日本らしいものづくりを通して、
「暮らし」の新しい答えを探したい。

日本らしい新しい文化を

三浦:先ほど民具のお話もしていただいたんですけど、奥さんの美織さんは食に詳しい人でもあって、風味を担当されていますよね。

藤川:そうですね、今後やっていきたい事業のお話をさせてもらえるとすれば、サクセスロードで大賞をいただき、国内外への展開が始まりますが、本当にやりたいことはさらにあります。妻がレストランをやりたいと思っているので、将来はそれをいっしょにやって、そこの家具を自分が作り、さらに建物自体まで、おくどさんがあるような日本の文化を生々しく残したい。

 それも、ただかっこいいからだけじゃなくて、僕なりに、日本の今の暮らしを考えたいんです。いくら古民家がかっこよくて日本の風土に合ってるはずといっても、スマホや電気は必要、現代に生まれた必要なものをちゃんと混ぜた日本の暮らしを自分なりに考え、それをいろんな人と実験していこうというのが一番やりたいこと。

 そのレストランの横にゲストハウスを作ってそこでは例えば、朝ごはんはお父さんがおくどさんで火を起こしてご飯を炊くとか。お母さんと子供さんは、隣の畑から野菜をとってくるとか。そして味噌汁をみんなで作るとかしてもらえたら、そんな朝ごはんが世界で一番美味いんちゃうかと。

 そんな暮らしをしたくても出来ない人のための体験の場でもある。体験したことによって「やってみよう」と閃いた人がやりやすくなると思うんです。そういう人たちが増えてくると、うちの家具も買ってくれるかもしれないし、それぞれの場所で新しい文化を作っていくことでしょう。そうなると僕自身がやりたい日本の暮らしの答えがもっとたくさん出てくるような気がします。

 僕はものづくりというところしか取り柄がないので、その面で進めていく。他の人はほかの部分を進めてもらう。そういう場所がここにあればいいのではと。それが、ここに住んでいて、思うようになったことなんですよね。

阿南:つまり、DKY とはひとつの発明ですね。食にもゲストハウスにも、日本の暮らしづくりにも通じます。

三浦:そう、商品でありがなら、使う人がお客さんになってない。「Yourself」が大事なんですよね。graf 代表の服部滋樹さんからも、「いまは全部を完成させないことが最高のデザイン」なんだとお聞きしました。お客様が単なるユーザーではなくクリエイターとして関与できる余白を必ず残しておかないと、これからのデザインは成り立たないと。まさに、それを食や住も含めた暮らし全般にわたってやろうとされているんですね。

取材を終えて。
維鶴木工一同のみなさんとともに。新入社員の二人も藤川夫妻の人柄と会社の理念に共感して移住してきました。工房の2 階が接客&ギャラリースペースになっています。工房のすぐ近くには滝があり、いつでも心のパワーが充電できそうで、羨ましい限り。

さとびごころVOL.49 2022 spring 掲載

さとびごころ連載

三浦雅之

藤川拓馬

阿南セイコ

風は奈良から

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