この記事はさとびごころVOL.47 2021 autumnよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
共創のプラットフォーム
秋らしさが増してきた9月末のこと、大和森林管理協会に公益財団法人トヨタ財団の2021年度国内助成プログラムに採択されたという知らせが届いた。
トヨタ財団は、世界的視野で長期的に幅広く社会活動に寄与することを目的に、トヨタ自動車によって設立され、生活・自然環境、社会福祉等の領域にわたる時代のニーズにあった課題を取り上げ、その研究や国内外の事業に助成を行っている。
そのうち、今年の国内助成プログラムのテーマは、「新常態における新たな着想に基づく自治型社会の推進」として①日本社会における社会サービスの創出や人材の育成、②地域社会を支える共創によるプラットフォームの創出や整備、という二つの枠組みが設定されていた。社会がアフターコロナの新たな在り方を模索する今、新たな価値や仕組みを創出し、持続・発展可能性のある地域社会の実現を目指すプロジェクトの出現を期待している。
大和協が採択されたのは、②の分野。地域社会の人々が地域内で自発、内発的に互助、共助のプラットフォームを新たにデザインすることをきっかけに多様な立場の人々が安心して生きられる環境を創造し、整備しようというもの。大和協は、「都市に取り残された森の多世代・多分野共創によるプラットフォームとしての再構築」をテーマに、奈良県西和地区谷林業所有の陽楽の森を開く活動で応募した。
陽楽の森は、都市開発から取り残され利用価値、資産価値が喪失した森林である。ここを拠点に、多世代・多分野にわたる地域社会の人々の多様な活動を生み出し、森と人、人と人を結び付ける基盤になるプラットフォームを構築する。
私が本誌の中でもしばしば述べるとおり、かつて繋がっていた森と人、人と人の関係は現在断ち切られ分断している。プラットフォームを構築することで、その分断を埋めつなぎ合わせる要素(以下、フックという)を明らかにし、特定する。そのフックによる共創を実際に創り出し、日常的に機能させ、その結果、地域の森林資源を生かした持続的で安心な地域社会がつくられることを構想している。
例えば、薪というフックを機能させるためには、薪ストーブや薪ボイラーの普及が必須条件になり、それらの普及の課程で工務店や設計士との連携が動き出す。薪を作るためには障害者福祉の就労事業との連携が見えてくるし、森林を伐採するには林業、森林所有者との連携が必要になる。新たに植林の必要性も生じるため、苗づくりという新たなフックの存在も欠かせなくなる。森をめぐるフックの創出から、地域の人の活躍の場の創出も起こり、地域の森林も価値を生じる。これをアフターコロナの社会の在り方=新常態の一つのモデルとして位置付けたい考えだ。
今回の応募のきっかけは、ここ数年来お世話になっている鳥取大学地域学部特任教授であり、大和協の顧問でもある家中茂教授から声掛けを頂いたことによる。家中先生は、私の母校である関西学院大学社会学部の大学院を出られた社会学者で、全国各地で多くのプロジェクトに関わってこられた吟遊詩人のような存在だ。数年前は鳥取県智頭町を中心に行われた文部科学省系統の団体の「生業・生活統合型多世代共創コミュニティモデルの開発」プロジェクトでもお世話になった。大学時代ろくに勉強しなかった私とも、真面目にシステムアプローチによる社会課題解決や私の作ったビジネスモデル俯瞰図のことについて議論してくれる。今回、有名財団からの助成に採択されたことで、我々の取組みが社会課題の最前線と向き合うものであることも自覚できてきた。
地域の森林が社会的な価値を取り戻すために、システムを創る必要がある…かねてから思い描いた都市林業システムの核となるプラットフォームづくり、その現実的な一歩を踏み出す絶好のチャンスをいただいた。(つづく)
さとびごころVOL.47 2021 autumn掲載