この記事はさとびごころVOL.47 2021 autumnよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
前回は、お米の成長と共に行われる水や田んぼの管理についてお話しさせていただきました。夏の太陽の光と、きれいで豊富な水をいっぱい受けて育ってきた稲も、収穫の時を迎えました。田んぼの四季の中でも、一年で一番心が踊る時です。収穫されたお米と、その後。今回は、お米づくりから生まれる資源の循環や、奈良の行事や食文化とのつながりについてお話ししていただきました。
田んぼが黄金色に変わる
籾(もみ)(稲穂)は開花してから約20日間で大きくなり、約1か月余りで完熟します。すると、田んぼの水を落として土や稲を乾かし、いよいよ稲刈りに備えます。
「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」。稲穂の成長の様子を人としての在り方に例えた諺にあるように、このころになると、籾には稲の葉や茎から全力で送り込まれた栄養分がしっかりと溜め込まれ、稲穂が重くなり垂れてきます。田んぼ一面は、使命を果たして枯れた葉や茎が黄金色に輝き出し、刈り取りの時を迎えます。
稲には、プラント・オパール(植物珪酸体)と呼ばれるガラス質細胞が存在し、それが日の光を受けると輝くと言われています。
稲刈は、早すぎると緑色の未成熟粒が多く収量が少なくなり、遅れると収量は増えますが、籾が熟れすぎてお米の色やつやが悪くなり、品質や食味が低下します。天気にも左右され、なかなか、刈るタイミングも難しいものです。
稲刈りからお米に
稲からお米にするには、いくつかの工程があります。主な工程は次の通りです。
①稲を刈る、②脱穀する(稲から籾を取る)、③籾を選別する、④藁を処理する、⑤籾を乾燥する、⑥籾すり(皮と米に分ける)をする、⑦精米する(玄米を白米と糠に分ける)
最近は、コンバインという稲刈り機械で刈り取りが行われます。この機械に任せれば、①稲刈り、②脱穀、③籾の選別、④藁の処理を一台でこなしてくれます。そして刈り取った籾は、⑤乾燥機に運ばれます。刈り取った直後の籾の水分量は、状況にもよりますが、約25~30%。これを長期保存ができるように、数時間かけて約15%前後まで乾燥させます。乾燥した籾は、⑥籾すり機械により、皮(=籾殻)と玄米に分かれます。籾とゴムロールをこすり合わせて籾殻と玄米に分離します。昔はこの作業を臼で行っていましたので、籾すり作業のことを「臼引き作業」とも呼んでいます。
出来上がった玄米はまだ糠層で覆われていますので、糠を取り除く⑦精米作業を行います。この精米作業を「米を搗つく」とも呼び、搗き加減を調整することもでき、糠を100%取り除くことで、「白米」、50%取り除くと「五分搗き米」などになります。
藁、籾殻、米糠も貴重な資源
稲作において、私たちが食べられるお米にするまでには、いろいろな作業があることをお話ししましたが、そんな作業において出てくる副産物もいろいろな使い方ができます。
①稲の藁
昔は、家畜のえさの他、藁草履や縄、民家の土壁(つちかべ)に赤土に藁を混ぜで使われるなど、生活の必需品でした。今でもしめ縄などにも使われています。
現在では、藁に需要が少なくなってきましたので、稲刈りの際に、刻んでそのまま田んぼに撒くことが多くなりました。撒かれた藁は、やがて腐り、春までには土に溶け込んで、有機の肥料になります。約8割の藁はそのように使われています。
②籾もみがら殻
籾殻は、小さな皮の集まりで、水でも形が変形しにくく、水分も含みにくいものです。形が変わらないので、その性質を利用した活用法があります。
寒い時期は、畑の地表を覆い、保温する目的で使われます。夏は、地表が乾燥しないように保湿のために撒かれることもあり、種まきの後に水分を維持したい場合には効果的です。また、土を耕す時に籾殻を混ぜ込むと、土の通気性が上がり、硬い土などの場合には、多く盛り込むことによって、空気や水の通り道ができるので、固い土が柔らかくなります。
籾殻を燃やして炭化させると、肥料にもなります。これを、籾殻燻炭(もみがらくんたん)といい、籾殻と同じ機能のほか、pH(土壌酸度)を改善(酸性土壌を中和)させ、微生物活性も期待できます。田んぼに運び込み土を柔らかくする有機物としてよく使われます。
③米糠
玄米の表面をけずって精米するとできるのが米糠(こめぬか)です。お米の命といわれる胚芽とそれを守る種皮と果皮からなる米糠には、玄米に含まれる栄養素の9割以上が含まれています。胚芽部分には抗酸化作用のあるビタミン類やミネラル、体の毒素の排出をすすめるフィチン酸などの成分、表皮部分には腸内を掃除してくれる食物繊維などの成分がたくさん含まれています。お米の一番健康にいいところを削りとっているわけですので、白米だけ食べて終わるのはもったいない話だと思いませんか。
そこで、米糠も色々活用されています。筍のあく抜きやぬか漬け(「マイぬか床」をされている方もおられるかもしれませんね)、 また、田んぼに運び込んで土に混ぜると、有機肥料に最適です。栄養価が高すぎる故、やりすぎに注意が必要なほどです。
このように、田んぼには、それぞれの段階で出てくる副産物を還元することで、小さいながら、田んぼの中で、資源の循環が行われています。
米糠の活用
籾殻の活用
稲藁の活用
祭りは豊作への感謝
豊作に感謝して、各地では様々な祭りが行われます。いくつか紹介しましょう。
①ススキ提灯
ススキと呼ばれる、稲藁を積み上げたものの形や稲穂そのものの形を模していると言われている提灯。地域によりますが、例えば、4・5 m程度の竹製の柱に上から2・4・4と提灯を飾ったものなどです。これを飾ったり廻したりしながら、五穀豊穣を祈り豊作に感謝する祭りが行われます。
奈良県では中南和地域を中心に各地で行われますが、御所市の鴨都波神社の献灯行事は、無形民俗文化財にも指定されています。
②だんじり祭り
だんじりが地域を練り歩く秋祭りも、五穀豊穣を祈り感謝するお祭りです。だんじりや神輿を含めると奈良県でも各地で行われておりますが、橿原市十市町の十市御縣坐(といちのみあがたにます)神社のそれは、7台ものだんじりが地域をめぐるお祭りとして有名です。
③千本搗き餅
お祭りにかかせないのがお餅です。稲は「稲魂」や「穀霊」が宿ったものと考えられ、崇められてきました。その稲から採れるお米は人々の生命力を強める神聖な食べ物で、米をついて固めるお餅や、米から醸造されるお酒はとりわけ力が高いとされています。
そこで、祝い事や特別な日であるハレの日には、餅搗きをするようになりました。餅搗きは一人ではできないため、皆の連帯感を高め、喜びを分かち合うという社会的意義も含まれています。特に、千本搗きの餅は、数人で杵の木(栗の木など)を持ち、皆で掛け声をかけて搗き、豊作などを祝うものとして伝えられています。
④かかし祭り
かかしは、「案山子」と書き、「笑顔をもたらす田畑の守り神」とも呼ばれます。「田の神」は、春に山から「山の神」が降りてきたもの。田を守り、稲の生育を守り、秋、稲の収穫が終わると山に帰り「山の神」になると言われているのです。そこで地域によっては、秋になると田を守ってくれたかかしにお団子などをお供えしてお礼するところもあるそうです。
日常と儀式 お米の食文化
日本人は、お米の栽培によって、安定的、計画的な食料確保を実現し、その食べ方の工夫もしていきました。例えば、単純に炊いて食べる「ごはん」、搗いたり練ったりして食べる「お餅、団子」、発酵させて液体にして飲む「お酒や甘酒」、米粒を粉にして焼いたりして食べる「かきもち、あられ」などの米菓子…などなど。一粒のお米を通して、私たちの生活に密着した色々な食文化が生まれ、受け継がれています。
また、お正月には「鏡餅」、桃の節句には「菱餅」、端午の節句には「柏餅」と行事食としても定着し、特にお正月はお餅が重要な役割を果たすので、年末に餅つきをするようになったそうです。祭りや棟上げにも餅を撒く文化は、災いを払う神事である散餅の儀(散餅銭の儀)から来ていると言われています。
餅米を含めてお米は、人の一生や五穀豊穣、家内安全なと年間の様々な場面で使われてきた大切なハレの食料です。
お宮参りのお祝い返しに「一升鏡餅」をお配りする農村文化があります。
出生後初めての食事を祝うお食い初めは、お膳に「赤飯」を盛ります。生後一年目の初誕生は、一升の餅米で「誕生餅」を搗き、 お彼岸のお供えものの定番といえば「おはぎ」や「ぼたもち」です。
お米はそれだけ、人々の生活と切り離せない貴重な食料と言えます。今年の新米を食べる時、少し思い出してみてくださいね。
さとびごころVOL.47 2021 autumn掲載
文・農家のこせがれ(農業関係技術者) 構成・編集部