この記事はさとびごころVOL.47 2021 autumnよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
4歳で発達障害の診断をもらい、小学校3年生を楽しんでるらしい息子へ。
どこかに出かけることもはばかられる毎日。夏が終わるころ、息子とふたりで下北山村へ行くことができた。森を楽しんだり透明な川に入ったり。どんな場所でも積極的に遊んでいる姿に成長を感じることができた。
宿泊したコテージには3段ベッドと、そこに掛けられた垂直のハシゴがあった。3段目まで登ると高さは4m にせまる。意気揚々と登った息子は降りられなくなった。なんとか足と手をハシゴにかけ、木で鳴くセミよろしく、目線4m で泣いている。一緒に泊まる友人の子ども達が、どうやって降りたらいいか、言うほど高くない事実、下には父がいることを教え、息子への大応援が始まっている。
ぼくは手助けせず、涙とよだれと汗まみれの息子の顔を拭くことに徹して、自分で降りるよう促した。そんな高くないのだ。怖がる息子の主張はこうだ。「手が滑って落ちると死ぬ。ハシゴの間隔が大きく、足が下に掛からず落ち、死ぬ」。
怖い出来事が自身の死に繋がってしまうという思考の持ち主。以前学校で戦争の授業があったそうで「戦争は起きるの?原爆が落ちてくるの?」と頻繁に聞いてきて、夜眠れないという。寝つきはいい。隕石や火事は客観的事実でうまく説得できたが、戦争は大変難しい…こちらもぐるぐると考えを巡らせる羽目になった。
ハシゴでの格闘は10分を超え、皆の応援もあり、片手片足を一段降ろすことができたことで死線を超えた。地面に降りた息子に拍手喝采が送られた。素敵な友人に囲まれると幸せだと実感できた。息子よありがとう。
ここまで書いて、ふと思い出した。ぼくが小学校5年の時、6年女子から怪談を聞かされた。聞いた人は呪われるというお土産つきだ。その後数日、様子のおかしい息子に気づいた母は原因を突きとめ、6年女子に「嘘だった」いう電話をぼくにするように手配した。
息子よ、戦争は絶対に起きないが幽霊はいるよ。
さとびごころVOL.47 2021 autumn掲載
文・都甲ユウタ(フォトグラファー)