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田んぼの四季 ─冬─ 第四回 ほったらかしではない冬の田んぼ!

この記事はさとびごころVOL.48 2022 winterよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

一年を通じて田んぼの四季をお伝えしてきたこの連載も、今回がいよいよ最終回。前回は、お米の収穫や藁や糠の活用、収穫を通した人々の喜びについてのお話でした。さて、それらを終えた田んぼ。冬は農閑期ともいわれたりしますが、農家の方々はその間どのようにして過ごしているのでしょう?そして田んぼはどのようになっているのでしょう? 田んぼを活用する先人の努力が農村文化として引き継がれてきたことも振りかえっていただきました。

おいしいお米を育てた田んぼも今はお休みの期間…?

 皆さんは、冬の田んぼをどう見ていますか?何気ない風景ですが…おいしいお米を育てた田んぼは、今はお休みの期間…と思ったら、あれれ? もう耕してあったり、水が張ってあったり、そのまんまの株が残っていたり。何かしているの?どういうこと?何か意味あるの?って思ったことはありませんか?

 田んぼは、お休みではなく次のお米作りに向けて準備をしています。

 冬の田んぼの管理は、大きく2つの方法に分かれます。

「乾かす」・・

 田んぼをなるべく乾かして稲ワラや残った肥料分を分解させ、田んぼの中を健康に保つため、稲刈り後、早々の秋に田んぼを耕して冬を越す方法と、切株のままにしておいて春に耕す方法です。

「水を張る」・・

 田んぼに水を張って水中微生物の活動を促し、その活動によって有機物の分解を進める方法があります。

田んぼにいる菌を活かす

 「乾かす」と「水を張る」は一見全く真逆なことをやっていますが、目的は同じで「微生物による有機物の分解と土の活性化」。違いは、「空気を嫌う(嫌気性)菌を使う」か「空気を好む(好気性)菌を使う」かです。

 田んぼにいる好気性菌(納豆菌などが有名です)は有機物を分解させるのを得意としていますが、温かくないと活動が鈍いので、気温が低い冬はほぼ休眠状態です。

 田んぼの水の中にいる菌(乳酸菌など)は温度が低くても活動はしますが、稲わらなど硬いものを分解するのは苦手です。

冬が来る前に田んぼを耕す秋おこし

 稲刈りが終わって、気温が高い秋のうちに、稲株やワラの他に発酵鶏糞や米ヌカを散布して耕しておくと、ワラが分解されて水溶性炭水化物になり、田んぼの土に栄養が増し、地力の増進になります。

 また、土を耕すことで土中の雑草の種が発芽して寒さで枯れるので、雑草対策になり、春の作業が楽になるとも言われています。

鳥たちのためにも春まで待つ 春おこし

 そのまま切株を残して、春になってから耕すと、ワラが分解出来ず、ガス(硫化水素)が沸き、根が腐る恐れがあります。しかし、鳥たちにとっては、稲刈り後の「そのままの田んぼ」が好都合です。落ちた「もみ」が残っており、彼らのえさになります。また、土中の雑草の種も食べるので、除草効果もあると考えられます。

 「来年の収量をアップするためには秋おこし、野鳥のためには春おこし」でしょうか。

冬も水を湛えたままで管理する 冬期湛水

 「この田んぼ、いつまで水が張っているの?」そう思った方はおられませんか?なぜお米を育てていないのに水を張っているのでしょうか?

 これは、「冬期湛水」(とうきたんすい)と呼ばれています。湛水とは、読んで字のごとく、水を湛たたえることです。水を張っていると、湿地を好む微生物やイトミミズが増殖します。それらの働きで、田んぼの土表面がトロットロの泥状に変化します。この泥状の中では雑草の種子は酸欠になり、芽を出すことができなくなるので、雑草の発生を抑えたり、収穫後に残った稲ワラの分解を促進する効果があると言われています。

 このように一見何でもない冬のたんぼの景色が色んな意味を持っています。

冬の田んぼを表裏フル活用 中世からすでに

 冬の田んぼを活用する例もあります。お米の栽培以外に、畑としても使う「田畑輪換」は、野菜や麦などの何種類かの畑作物を、お米と交互に栽培する農業方式のことです。

 同じ田畑に、異なった作物を年2回栽培することを「二毛作」、3回以上栽培することを「多毛作」と言います。例えば、奈良県の平野地域でもよく見かけますが、夏(6月~ 10 月)には米、冬(10月~6月)に麦を作る「二毛作」。他に、春にジャガイモ、秋にほうれん草など1年に複数の作物を作ることも同じです。この際、夏を中心とした主要な作物の栽培期間を「表作」、その後の栽培を「裏作」とも呼ばれます(※)。

※同じ田んぼで、一年のうちに例えば米を2回作ることは「二期作」と言います。ほうれん草など同じ作物を複数回作ることも同じです。

 奈良県の平野地域では、既に奈良時代には開田などの農地や土地の整備(条里制)が行われ、主にお米づくりが行われていました。しかし当時は、水に限りがあったので冬でも田んぼに水を蓄えておかなければならず、一年に一回しか栽培できない「湿田一毛作」の時代でした。

 中世には、人口も増え、それを養うために田んぼの活用が注目され始めます。ため池や井堰を作って水を確保したり、排水路の整備や高畝栽培(かまぼこの様に土を盛って栽培する方法)などの技術が研究され広がります。これよって水が安定供給でき、冬に作物が作れるようになりました。そこで、表作に米を、裏作に小麦やナタネやソラマメ(蚕豆)などが栽培されるようになりました。ナタネは当時の明かりの基となる油や、油を燃やしてできる煤を集めた墨になり、搾油後の油粕は肥料などに使われました。このころから、いわゆる田畑輪換による二毛作が行われ始めたと考えられます。

裏作で栽培される麦(田原本町)
裏作で栽培されるネギ(田原本町)
田畑輪換の里芋栽培(稲作と芋づくりを1 年ずつ交代して作付けされています)(天理市)

田んぼ活用と農村文化

 近世初期になると、更なる人口増加と地域経済の発達により、衣類の需要も増えてきました。このころ、綿による織物技術が開発され、麻に替わる衣類の原材料として綿の需要が高まります。綿は、米ほど水を必要としませんので、水が貴重だった奈良の地では、節水の農業も合わさって、表作に米や綿、裏作に小麦やナタネやソラマメの栽培が交互に行われるようになりました。同じ農地で栽培すると連作障害をおこすことから、複数の田んぼで、数年間で作物をローテーションして栽培されるようになりました。この栽培を、ブロックローテーション農業と呼び、現在でも行われています。

 田んぼの有効活用のアイデアが、土地を整地したり作物や栽培技術の進歩に繋がり、先人の方々の努力と創意工夫による農村文化として引き継がれていることに改めて感動を覚えます。

 奈良県でも、夏は米や大豆、ナスなど、冬は小麦、ソラマメ(蚕豆)など、色々な作物を栽培されている田んぼもあります。みなさんの地域で農地がどのようにフルに活用されているか、ちょっと注目してみましょう。

冬の伝統行事(山添村)
農の暮らしと四季の伝統祭事

さとびごころVOL.48 2022 winter掲載

文・農家のこせがれ(農業関係技術者) 構成・編集部

さとびごころ連載

田んぼの四季

農家のこせがれ

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