この記事はさとびごころVOL.46 2021 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
システムアプローチ
前回は、ワンピースに例えて、チームビルディングの話を書いた。バラ色の未来を思い描きつつも、林業や福祉、クリエイター、建築家、エネルギーの専門家、学者、行政職等、様々な領域の人々の協働を現実に機能させていくことの難しさを同時に感じている。専門用語も行動様式も関わる制度もバベルの塔の様に皆違う。さらに輪をかけるように皆個性が豊かでバラバラなのだ。
明治維新以来、縦割り深堀りで大発展を遂げた日本社会を支えてきた、専門分化した社会システムが機能しにくくなり、大きな壁にぶち当たっているが、私の目の前にもその縮図の様な状況が広がっている。円滑な協働のためには、円滑に機能するシステムを創る必要がある。それにはどのようにしたら良いだろうか。これが最近の私のテーマである。
学生時代、意図せず迷い込んだ一般教養の授業で「分析還元主義」と「システムアプローチ」という考え方に出会った。なぜ見えるか、なぜ聞こえるかという哲学から始まった科学は、分析還元主義的な方法でありとあらゆることを解明してきたが、その先で目的を見失うという限界に達した。そこで、登場したのが、分析還元主義とは真逆の観点から解決策を見つけだすシステムアプローチという問題解決手法(後述)で、その手法で科学の課題を解決しているというような内容だった。これに、思いもかけず引き込まれた。
当時、私は就職活動に取り組んでいたがなかなか決まらず、どういう進路に進めば良いのか、人生のエアポケットに落ち込んだように、自分の殻に閉じこもり、どう考え、どう生きていけば良いかをひたすら分析することに向き合っていた。しばらくして、自分の殻に閉じこもって悩み分析していても、結局悩み事が特定できるだけで何も解決しないことに気付いた。そして、アルバイトに出たり、専門学校に通い資格を取得し、家業に関わる中で目標を見出し、いつしかかつて抱えていた進路問題は解決することが出来た。まさにシステムアプローチの方法で問題が解決できたなと思い、納得していた。
そして、今、当時以上に複雑な課題にぶち当たっている。ふと、もしかしたらその考え方を活かせるかもしれないと思いついた。二十年余りの時を超え、改めてシステムアプローチについて調べてみた。「システムアプローチとは、部分ではなく全体を、要素とその繋がりや関係性を重視した課題解決手法です。この手法は、何か解決したい課題(現実と目標のギャップ)がある場合にそれを埋めるためのシステム的なアプローチ手法です。そのために、課題を明確にし、それを、どう解決するのか具体的な方法論を決定して実行に移します。そこで出た結果を評価し、目標とのギャップが埋まっていれば問題の解決、解決されていなければ、問題の再設定をする。この一連の流れがシステムアプローチの手順で、問題が解決するまで繰り返しこのサイクルを回す」とあった(※)。
※出典:https://resilient-medical.com/medical-safety/systems-approach
現状集まっているチームメンバーは私との出会いをきっかけに意図せず集まったメンバーが多く、チーム全体が何なのかが明確に定義されていない。
各要素を構成する団体や人々は何か、それぞれの繋がりや関係性は何か、チーム全体で目指すバラ色の未来の具体的な目標や理想像とは何か、今の現実はどうなっているのか。その理想と現実のギャップである課題を認識し、それを埋めるための具体的な方法をみんなで考え、実行しトライ&エラーを繰り返していく先に、ささやかで小規模だが前向きに円滑な協働を実現させるシステムが創られてくるのだと思う。
そしてそのシステムは、行き詰まった地域や森林の課題を突破してくれると思う。その実現のために、かつて出会ったシステムアプローチの手法を活かしてみたい。過去の自分の課題と現在の自分の課題がシンクロしてきた。人生は不思議だなと思う。
さとびごころVOL.46 2021 summer掲載