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半農2Xに向かって進む 入江透さん(薬膳カレー店開業準備中)風は奈良から ~さとびごころ×七つの風~ #07

この記事はさとびごころVOL.48 2022 winterよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

三浦雅之&阿南セイコがゲストをお迎えしてインタビューする連載

GUEST 入江透さん(薬膳カレー店開業準備中)

HOST 三浦雅之・阿南セイコ

入江透さん。1991 年大阪府出身。食の大切さを学んだ母に育てられる。近畿大学農学部卒。家具メーカー営業職を経て、宇陀市地域おこし協力隊として2021 年に移住。目下、薬膳カレーの店舗開業に向けて、奮闘中。
レザークラフト職人を兼業し、農業にもチャレンジ。本文には出ませんが、宇陀で出会った奥さんと新婚ホヤホヤ。

漢方伝来の地で薬膳カレー

阿南:今日のお客様は本連載初のルーキー、入江透さんです。

三浦:入江くんのことは学生時代からおつきあいしているだけに、嬉しいな。

阿南:早速ですが、宇陀市の地域起こし協力隊として2021年2月に宇陀にいらしたわけですが、どういう思いで応募されたのかというあたりから、お伺いしてもいいですか。

入江:はい、結構いろいろ重なって今にたどり着いているんですけど、学生時代に三浦さんにお会いしたことがきっかけかもしれません。三浦さんが作られている野菜を食べて、「野菜って、こんなに美味いの? 伝統野菜なんてあるの? 」みたいな衝撃があり、ゆくゆくは独立して飲食業で生きていけたら面白いやろなあっていうのがずっとくすぶっていました。

 卒業後は家具の営業職でした。すごく楽しかったんですけど、その一方で、会社が生き残っていくための現実を知りながら仕事を続けてきて、「僕にはあってないな。もっと素直に生きていきたいな」というのがありました。もう6年弱働き、ある程度は経験したのでもうひとつステップアップしたいというところで、うまくつながってこちらにきた感じです。

三浦:奈良にキャンパスがある近大農学部出身ですから、その時点ですでに奈良や農学という方向には向いておられましたね。もともと眠っていた気持ちが、むくむくと表に出てきたタイミングだったんですね。

阿南:地域おこし協力隊への応募も、三浦さんがきっかけでしたとか。

三浦:大学を卒業されても、入江くんは定期的に遊びに来てくれていました。いよいよ転職との決意を聞いたとき、僕たちも関わりがあったために知っていたNC L (ネクストコモンズラボ)奥大和(※以下NCL)のしくみが、「ひょっとしたらいいかもね」と、一応の情報提供をしたんです。そしたら、すぐ!に動いたんですよ。エントリーの期限が、わずか1週間後に迫っているタイミングで。

入江:お聞きしたときはもう、「これしかないかもしれない」という気持ちでした。一番近道で、このタイミングでこういうお話と出会うって運命だなと。で、1週間で事業計画書も作らないといけない。仕事のかたわら徹夜して書きました。

 応募当初は地産地消の飲食店がしたいと言っていましたが、面接が進むなかで「飲食といっても、結局何がしたいの?そこはちゃんと決めてきてくれ」と言われ、そこで「薬膳カレー」ということをポンと思ったんです。

阿南:ポンですか!

入江:メニューを試作するために毎日食べないといけない。毎日食べられる料理って何かなあと。

三浦:そこ?(爆笑)

入江:カレーやったら毎日食える!それならいける!と。そこから世界が変わったんです。

三浦: 振り返ったら、そこは漢方の伝来地であったわけで、ばっちり!宇陀のことはそこまで詳しくない状態で応募したはずなんだけど。

入江:ほんま、たまたまでした。宇陀が薬草で有名だということも知らなかったんです。宇陀ってどこ?って感じ。カレーにしようと決めてから競合がないか調べるうちに、唯一あったスパイスカレー店が閉店していることがわかり、それで「いけるかも」と。さらに、宇陀と薬草の関わりもわかってきて、「薬膳カレーはありだな」と。

阿南:その等身大感がいいですよね。

三浦:それでいて、宇陀×薬膳=どストライク。もうミラクルですね。

阿南:後から見ると狙ったように見えると思いますがそうではなかった。これはスクープかも(笑)!

三浦: 僕も知らんかった!

※ Next Commons Lab 奥大和とは?

= Next Commons Lab 奥大和では、ロート製薬と宇陀市、奈良県がパートナーシップをもち、2017 年春から、食のテーマを中心とした様々なプロジェクトを立ち上げ、起業を誘致してきました。起業家は支援を受けながら3 年以内の起業/ 事業開発に取り組むと同時に、自分たちの手で理想の暮らし方や働き方を実践。地元の人や資源と深く関わりながら活動をすることで、地域を活性化し、持続可能なあたらしい社会を作ることを目標としています。

店を開くのがミッション

阿南:そして丸1年。協力隊の期間は最長3年ですね。

入江:あと2年しかないですね。

三浦:そんな感じか。意外だったな。

阿南:この1年は、協力隊としてのミッションとしてはどういうことをされてきたんですか。

入江:僕が応募したのは、地域おこし協力隊の制度を利用した、NCLというフィルターを通しての社会課題解決のための「起業特化型」という制度で、起業支援を受けながら三年間で形を作って独立するのが任務です。宇陀市にはすでに2名の協力隊員がいますが、こちらは、NCLとは別で、市役所の中に入ってしごとをされています。

 この1年は、まずは移住して自分のカレーの開発と店舗の場所探し。たまたまご縁で店舗が見つかり、今セルフリノベーションしているところです。期間中は固定給以外、起業に必要な視察や試作等に関して活動費として支給されることもあります。

三浦:1年の間に人とのつながりもできて、店舗も見つかり、実際何が課題なのかな。

入江:一応2022 年4月オープンを決めてまして、あともう数ヶ月。なんだか見切り発車になるのではというのが怖い。中途半端な料理を出したくないので、自然療法の資格もとって、スパイスや地元の野菜も使うなど、たくさんのこだわりポイントがあるんですけど、それを全部クリアできるのかなって。

 人間関係も難しくて。僕は、わりと初めての方でも懐に飛び込んで打ち解けるの得意なほうではあるんですけど、根本的なところから信頼を勝ち得るって難しいなって移住してみて思ったんです。地元の人もよそ者にいい顔しない方もいらっしゃる。でもそれが、自分の行動で少しずつ変わっていくのも感じてます。全員仲良くなれるんちゃうんかな、目標としてはそうありたい。

三浦:そういう課題があるから「2年しかない」だったんですね。

阿南:むしろ未完成な状態からの道のりを開示して、みなさんに進捗の喜びを共有してもらうのも面白いかもしれませんよ。

もうひとつのXレザー職人

三浦:薬膳カレーと並行して、学生のころからやっているレザークラフトは、入江くんのもうひとつのエックスですよね。あらためて思うけど、宇陀って、革製品という風物があるじゃないですか。

阿南:すごい、その偶然。

三浦:そうなんですよ。宇陀に呼ばれてるんですよ。

入江:昔からものづくりが好きで、大工や彫刻をしたいなと思ってるような子どもでした。大学生になったある日、革の財布が欲しくなってみると2~3万円はしてました。革はいいのに、小銭入れの開け方とか、カードが入る枚数とか、自分にぴったりのものがないのに、そこまで払うのは迷うなあ…って思いまして。じゃあ、自分で作ったらいいやん!というのが始まりです。

阿南:今やなかなかの人気ぶりとか。

三浦:レザークラフト業は、NCLの任務とは別枠かもと思うけれども、これからどんな風にやっていこうと思っているの?

入江:レザークラフトをやっている話は役所の人の前でも堂々としています。これは、すごい相乗効果があるんです。カレー屋としての知名度はまだないけど、レザーだったらある程度のレベルのものが作れるので、「レザー職人なんですけどカレー屋さんオープンするんです」って言うと、すごく食いついてもらえるんです。

 レザーは、今後も続けたい。地元になめしている会社があるので地元の革も使いたいです。一番重要なのは宇陀市は鹿の獣害がすごいこと。その解決のためにも、鹿をちゃんと食べて供養して、皮をなめしてもらってそれを使えば、これも地産地消でいけるでしょう。できれば狩猟免許をとり、なめす技術も身につけたいと思っています。

三浦:エックスを二つ持てたら生き方として理想やね。地元にも貢献できるかっこいいモデルになるかもしれないね。

どんなことが起こっても
土地と人と「共存して」、
自分の力で「工夫して」生きていきたい。

獣害にめげず農業も

三浦:地産地消を目指すにあたって、自らも野菜づくりもしたいのが入江くんですよね。農のほうはどんな感じ?

入江:農業はまだ全然ですねえ。夏前にひととおり植えた野菜の苗は、鹿にほぼやられました。「こいつら肉にして食うたろか?」と思うくらい恨みがありましたよ。めっちゃ楽しみにしてたのに。

三浦:僕も経験あるから気持ちわかるなぁ! でも、やめようとは思ってないんですよね。

入江:やります! 移住したばかりのときは、畑、店、レザーとやりすぎて、支援を受けているNCL 事務局に心配されてたんです。僕はそれでも言うこときけなくて、友達と一緒だったらできると思って始めたんですが、仲間が忙しくなり続かなくなってしまって。そのとき、地元の人から耕作放棄地を借りることができました。一反以上はありますが、手がけているのは50m四方くらいです。

三浦:入江くんの場合は、半農半XのXの部分が二つあるということが特殊で、それが地域が持っていた歴史文化ともリンクしてるし、地場産業ともリンクしてる。これは狙ってもなかなかそうはいかない特異なことだと思います。「きっと授かったんだなあ」とすごく感じますね。入江くんが選んだのか、土地が入江くんを呼んだのか(笑)。

 僕らも、どうして清澄の地を選んだのですかって聞かれることが多いんですけど、こればかりは恋愛のようで、自分が選んだ感はなく不思議なことがあって今のようになっているので、通じるものを感じるなあ。やばいなあ。

 これからは、入江くんの想いが具現化していくと思います。そこで、未来の自分自身に聞いてみてほしいんだけど、大切にしていきたいことってありますか。

入江:自分で工夫して生きていくということ。そこの環境や周りの人たちがいるから生きられるので、共存していかないと生きていけないということを感じます。だから、どんなことが起こっても、人とか土地とかと共存して、自分で工夫して生きていきたいですね。

阿南:2年後へのプロセスを観戦?しながら、ジビエと自家栽培野菜入りの薬膳カレーが食べられる日を楽しみに待ちたいと思います。

取材を終えて。
いつもは飲食店での取材が多いのですが、ツノフリレンタルスペースを借りてみました。
お酒やアテはないけれど、竹西農園さん(奈良市)のお茶を、リサイクルふきガラスのでく工房さん(伊勢市)のコップに入れて味わいました。レンタルスペースは小さな集まりにもってこいですね、と3人とも満足でした。

さとびごころVOL.48 2022 winter 掲載

さとびごころ連載

三浦雅之

入江透

阿南セイコ

風は奈良から

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