この記事はさとびごころVOL.38 2019 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
あすならもり第5回は、森林管理・森林環境政策の研究者(近畿大学教授、前森林総合研究所関西支所長)の松本先生をお迎えしました。昨年4 月に近畿大学に着任され、奈良県では貴重な森林・林業部門の学識経験者として活動されています。研究分野はグローバルな気候変動から身近な里山づくりまで広範囲にわたりますが、今回は時間の関係もあり、先生の幅広い研究分野の中心である地球温暖化防止と森林分野の役割についての基礎的なご講演をいただきました。松本先生の今後の奈良でのご活躍がとても楽しみです。
地球温暖化はただ事ではない
マンモスがこの地球上で生息していた頃の地球をイメージして見てください。現在の平均気温とどれくらいの差があったか。かなり気温が低かったと考える人が多いと思います。
しかし、実際には現在の平均気温から4度程度低かっただけなのです。それが、今の温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化では、これからたった80年で平均気温が4・8度も上昇すると言われています。それがどれほど地球の環境を変えるのか、考えると恐ろしいですね。温暖化により海水が膨張し、グリーンランドなど陸上の大量の氷が溶け海洋に流れ出る。こうして、海水面は現在より82㎝上昇すると言われています。その結果多くの陸地を失い、多くの居住地や都市が水没するでしょう。2050年には夏季の北極海の氷は完全に無くなるとも言われています。
氷の上で生きるシロクマなど多くの動物の生態が大きく影響を受けるほか、永久凍土の溶解により更にCO2が発生し濃度上昇に拍車をかけるとも言われています。台風の巨大化や気温上昇による動植物の種の急速な減少、生息域の変化や撹乱など、地球上の生態系が急速に変化し、当然、人類の社会や生活にも大きな影響を与えます。
どうすれば抑制できる?
こうした地球温暖化を引き起こしている大きな原因はCO2濃度の上昇が大きく、化石燃料の利用とセメント生産による排出、それに次いで、森林破壊などの土地利用の変化による排出が大きいことがわかっています。これに対し、森林や海洋がCO2を吸収しますが、排出と吸収のバランスが大きく崩れておりCO2が増え続けているのが現在の状況です。
吸収について、森林の光合成によるCO2 の固定はよく知られているところですが、人工林への過度の期待は禁物です。森林分野で忘れてはならないのが木材利用です。木材は生成の過程で光合成で空気中のCO2 を吸収、貯蔵しており、これを長く使うことがCO2削減に大きく貢献します。木造建築物はアルミ、鉄、コンクリートなどが主体の建築物に比べ製造過程や完成後の省エネ効果など、化石燃料の使用を大きく減らしつつ、建材自身にもCO2を貯蔵します。木造建築物は吸収と排出減に大きく寄与することは間違いありません。また、森林の吸収では人工林だけでなく、今まであまり取り上げられることがなかった天然林もCO2吸収に大きく寄与していることが、森林生態系多様性調査でも明確にされました。このように、吸収の方策を考える上で科学的に証明された確かなエビデンスにより判断することも重要です。
排出削減について、熱などのエネルギーを化石燃料(地中に固定されていた炭素を掘り出して空気中にCO2として拡散)から、木質バイオマスなどカーボンニュートラル(元々空気中にあったCO2の炭素を固定した物質を空気中に戻す)なバイオマスエネルギーに置き換える活動は既に動き始めていますが、バイオマスエネルギーの比率をもっと上げなければなりません。
温室効果ガス削減には、新たに空気中にCO2を増やさない社会の構築と、健全な森林を維持拡大することが地球規模で求められています。よく問題視される発展途上国の森林開発による森林破壊を止めるにも、地球全体で保全のための地域へのインセンティブを考えることも必要です。温室効果ガス削減は我々にとって待ったなしの状況です。
【講演を聞かせていただいて】
温室効果ガスの削減努力は、国際的にも重要な課題であり多くの方々が既に認識しています。しかし著しい効果が出ない状況下、排出削減や森林分野、特に木材利用など、やれる事は徹底して進めないといけない。また、熱帯雨林の保全など責めるだけでなく地域に理解を求める行動の重要性も学ぶことができました。
さとびごころVOL.38 2019 summer掲載