この記事はさとびごころVOL.39 2019 autumnよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
木材活用については東京オリンピックのメイン会場など、公共施設の木造化・木質化が一般的にも広く知られるようになっていますが、この木材の「出口(川下)対策」は 森林を護り、山村で生活している人々や森林所有者、いわゆる「川上側」にどれだけ潤いをもたらしているか?【木材活用=森林資源の有効活用=山村の生活の安定】にはまだまだ課題が多いと考えます。今回は、山と人々の生活をつなげる提案を全国に発信し続けておられる古川泰司氏に、シンプルで無駄がなく経済的な木の活用術のヒントのお話をいただきました。その講演録よりダイジェストをお届けします。
山と街が繋がっていない!国産材で建築を
私(古川氏)は、大学進学では建築を志しましたが、ダイレクトに工学部の建築に進まず美大で建築を学び始めました、その後、縁あって筑波大学で安藤邦廣先生などに師事し、国産材で建築を考えることに携わるようになりました。
数々の経験を積む中で感じたことは「山と街が繋がっていない」「建築で森と街を繋げたい!」ということ。この思いで、今も頑張っています。
独立した1998 年、千葉の林業家の斎藤さんの木を使った家を建てるプロジェクトを経験しました。そこで、興味深い建具屋さんとの出会いがありました。その建具屋さんは自分で木を伐採し、その木で建具と家具を作るのです。この建具屋さんと関われたことで、木の性質や素性と正面から向き合い、長所と短所を理解した上で建具や家具を製作する姿勢にふれました。これが「木材利用はバケツリレーだ!」と感じた最初です。
日本では元来、木造建築の木材の品質は大工さんが責任を持っていました。自分の目の届くところで木材をストックし、その木材の素性や品質を観察し、それを充分理解した上で適材適所の判断と責任を担っていた訳です。
誰が木材の品質を考えるのか?
しかし、今、建築業界ではこういった大工さんが激減しています。大工さんが木材をノミとカンナで削る手刻みはほぼ無くなり、96%がプレカット(コンピュータの設計図に基づき工場で柱や梁の部材を機械が切削し、それをプラモデルのように現場で組み立てる工法) になってしまっています。
「大工さんがいなくなったら誰が木材の品質を考えるのか?」そんなことから、設計者として木材の品質や性能を考えるようになりました。
木材の品質を示す数値として含水率とヤング係数(材質の粘り強さの係数)が挙げられ、JAS でも基準としても使われています。しかし、この含水率というのも個体差や産地による差が大きく、管理は大変です。
特にスギの扱いは大変面倒です。乾燥した木が良いからといって人工的に含水率を15%に急激に下げると、木はガサガサになり、その温かみや肌触りを失ってしまうのです。色や艶も個体差は大きく、産地によっても異なります。
個体差まで理解、管理できれば可能性は広がる
でも、その個々の品質を理解さえできれば、設計者はデザイン力でそれぞれの木材を無駄なく有効に活かすことができます。山や木材生産者は、これら品質を判りやすく建築サイドに伝えることが大切ですし、建築側はデザイン力でこれらを最大限に活かすことが重要です。
森林所有者、素材生産、市場、製材、加工、設計、施工と山から産出された木材が街で暮らす需要者に届くまで多くの手を渡りますが、其々が其々の段階でこうした努力を怠らず、森の恵みをできるだけこぼすことなくバケツリレーで引き渡すことが、森林資源の活用にはたいへん重要なのです。
さとびごころVOL.39 2019 autumn掲載