この記事はさとびごころVOL.34 2018 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
東京への一極集中は危機感をもって叫ばれつつも未だ止まらず。山村の疲弊・消滅が叫ばれつつも人口の流出は留まるところを知らない。そんな今、森林を守り共に生きてきた山村で何をすべきでしょうか。「地域資源を活かした産業創出」により「生まれ 育ったふるさとで家庭を持ち、生涯を過ごせる社会を実現する」こんな図式を誰もが思いつきます。しかし、奈良の山村には先人が育んだ圧倒的高品質の木材という地域資源がありながら、これを活かした産業の創出が思うように進んでいません。この課題解決のヒントを今回の学習会に求めました。ゲストは、古川大輔さん(株式会社古川ちいきの総合研究所代表取締役)。盛り沢山の第6 回学習会講演の一部を紹介します。
負の流れは何故止まらない
奈良県の林業関係者の多くは、有名林業地の誇りと長い歴史の中で「良い木」とされてきた木をひたすら伝統的な育林手法で育て、製材所でも長い歴史の中で主役だった製品を自慢の高い技術で挽き続ける。だが、いくら汗を流しても山の景気は回復しない。
一方で社会のライフスタイルは変遷を辿り、人々の求めるモノも変り続け、国産材は既に生活必需品でなくなったとさえ言われ、林業衰退に拍車をかける。この社会の変化のなかで生き残るには、いつまでも業界の常識、既成概念にとらわれていてはいけない。
「欲しい!」と思わせるには?
必需品でなくなった木はどうすれば買ってもらえるか。買い手に「欲しい!」と思わせることが重要。奈良県の木といっても地区によってその材質も大きく異なる。それぞれの強みを自覚したうえで闘わなければならない。
例えば、トレーサビリティ。吉野の木は昔から山のどこに立っていたかまで取引の中で語られるほど出所が明確だ。このような「唯一無二」はブランディングの大きな強み。また、林業で働いている人がカッコ良くなることも重要な要素だ。人はカッコ良いものに興味を持つ。そして経営者には情熱が不可欠だ。「情熱=好き×憤り」本当に好きなことを追求することで憤り、そこから情熱は生まれる。
理念無き利益は犯罪 利益無き理念は寝言
ただ我武者羅に事業を進めても決して成功しない。成功している事業者は必ず「理念」を持っている。林業は非常に時間軸の長い産業であると共に、森林の盛衰は国土保全や生活環境に大きな影響を与える。このような特徴的な産業を成功させるには、その多面性を踏まえた「理念」の構築が重要。そして、この制約のなかで、どうすれば利益を生み出せるかを多角的に考えることが大切だ。また、買い手ばかりを見るのではなく、投資家に対して魅力ある産業にしなければならない。
トータル林業をチームで
例えば育林や素材生産業に携わる者も、一度製材してみれば何をどうすれば無駄がなくなり、高く売れるようになるのかが見えてくる。一次、二次、三次の各産業をトータルで考えることが極めて重要。そして、それは独りではできない。「自分はここからここまで」という手法で線を引くのではなく、多業種がチームになって取り組めば個々の利益も生まれ、多様な奈良の林業の発展が見えてくるだろう。
【講演を聴いて】 ★講義を補完する意味で古川さんの著書『森ではたらく27人の27の仕事』を興味深く、楽しく読ませていただきました。★今回もたくさんの方々にご参加いただき感謝しています。毎回参加者の方々の幅が広がることが私達主催者の大きな喜びです。この学習会を核により多くの方々と明日の奈良の森を考える「輪」を広げられればと考えていますので、次回以降もよろしくお願いいたします。
さとびごころVOL.34 2018 summer掲載