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森とともに生きる 第一回 都会生まれの昆虫少年が、奈良で林業に携わるわけ

この記事はさとびごころVOL.22 2015 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 

昆虫から木、木から森に向かう

  かつて公害問題で騒がれた大阪の佃島で育った私は、ファーブル昆虫記と虫網を手に公園や街路樹に集まる昆虫を観察していました。小学2年生の時、近隣住民の「ベランダに虫が入るから伐ってほしい」という要望で、大きな木が伐られることになりました。ショックでした。管理事務所に抗議文を届けましたが、一人の子どもの意見が通るはずもなく、ある日、学校から帰るとその木は切り株になっていました。

   木のスケール(寿命や大きさ) を考えずに植えられた街路樹は枝を張って大きく育ち、人の都合が悪くなると伐られてしまう。木を育てるには何十年、何百年先の姿を想像する必要があるのではないか、そう考えるようになったのは高校生の頃。山縣睦子さんの著書『木を育て森に生きる』(草思社) で林業という仕事を知りました。「これだ!」と私は通学する電車の中で自分の進路を決めました。

  学校で林業を学び森林組合に就職しますが、そこにあったのは補助金に支えられ存続する日本林業の現実。補助金獲得のための森づくりをしている事業体が多い現状に直面します。これでいいのか? 

自問自答する日々が続きました。 

ある日の谷林業ファミリー(左から神園貴史さん、筆者、吉野剛広さん)

嘆くより、新しいしくみを

  歴史を振り返ると、日本は都の造成や築城のために略奪的に伐採した木材で建築されたため、見渡す限り禿山(はげやま)という時代が長く続きました。そこに農業の延長線上で、木を植え始めたのが日本の林業の始まり。収穫期が来たら伐採してまた植える、循環サイクルを形成してきたのが林業の特徴です。しかし時代と共に文化も変わり、木を使わなくても人は暮らしていけるようになりました。そんな状況下、森林は成長し続け、現在日本はかつてないほどの森林資源を持つ国になりました。国はこの資源を活かそうと、木材の自給率(現在約30%)を高めようとしており、計画的に森林と関わっていくことが重要です。

  私の転機は2008年のJR 野洲駅。あるフォーラムに参加するため、主催者から事前に送られてきた資料入りの封筒を持ち、駅前発のバスに乗っていました。その車中で「フォーラムですか?」と同じ封筒を持ちながら話しかけて来る人がありました。谷茂則、現在の谷林業株式会社の社長です。そこでの会話から、林業の衰退を嘆くのではなく、新たなしくみを創ろうとする谷の想いに共感し、2012 年に奈良県へ、当時住んでいた高知県から引越します。

2トントラックに原木を積込むプロセッサ(枝払い、造材、積込みを行う重機)

山離れの時代に

  谷林業は王寺町周辺や吉野地域にある谷家所有の山林を経営する会社で、ほとんどを地域に住む「山守(やまもり)」が責任を持って施業・管理してきました。しかし近年、山守の高齢化と後継者問題で山離れが深刻化し、放置される森林をどうするかが課題となっていました。そこで谷は、同じく吉野林業地の大山林所有者でありながら自ら先陣を切って作業道づくりをされている岡橋清元氏(岡橋家当主、清光林業(株)会長)から壊れない道づくりのノウハウを学び、メンバーを集め人材育成をしながら作業道づくりを始めました。

  そんな中、谷が築き上げてきたのは、誰もが考えや想いを発言しやすい職場環境。自分がやりたいこと、考えたことを話し合い、メンバーの合意がとれるカタチまで練り上げられたら実行に移す、林業を子どもたち(未来)に誇れる仕事にしようとしているのが今の谷林業です。また、異分野の人を繋げることに重点を置いていて、そこから生み出される化学反応から新たな事業展開を探ろうともしています。 

そもそもなぜ林業をしたかったのか

  ふと立ち止まって、私が小学生のときに抱いた虚無感を払拭できるのは何なのかを考えることがあります。これは永遠のテーマで、正解はないと思いつつも、「木を伐らないこと」ではなく「未来を見据えて木を育て、森林と人の暮らしを調和させること」だと今は考えています。そのためには新たな価値観の創造と、伝承された林業の継続が必要です。

  これらは自転車の前輪と後輪のように、どちらが欠けても前進できない重要な役割を持っています。常に次世代の環境と暮らしを考えながら、先代から引き継いだ林業をやりつづけることが私たちの世代に課せられた使命で、最も大切なことだと考えています。

【谷林業】
吉野の5 大林業家のひとつ。中近世以来、現在の王寺町の大地主として山林管理を手がける。
2011 年、老舗でありながらベンチャー企業として「谷林業株式会 社」と改称。若手人材の育成や、新規事業の立ち上げなどを展開している。
奈良県北葛城郡王寺町本町2-16-36
TEL0745-72-2036

さとびごころVOL.22 2015 summer掲載

久住一友(谷林業株式会社) 

森とともに生きる 第一回 都会生まれの昆虫少年が、奈良で林業に携わるわけ
森とともに生きる 第二回 山から木を収穫する架線集材という技術
森とともに生きる 第三回 環境と経済を両立する自然にさからわない森づくり 
森とともに生きる 第四回 地域とつながったこれからの森づくりを  

2015 summer

さとびごころVOL.22

さとびごころ連載

久住一友

山守

岡橋清元

谷林業

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