この記事はさとびごころVOL.40 2020 winterよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
農業を始める理由は、人それぞれだ。
サラリーマンからの転身組である私の場合のそれは、一風変わっていた。私は今、(良い意味で)変人とか変態とか言われているが、入り口からしてすでに変だった。
大学時代、探検部に所属し、当時幻といわれた日本カワウソを探し求めて高知県の森林や河川に足しげく通っていた。
ある日、現地での聞き込み調査の最中に、カワウソの個体数減少の原因の一つが、水質悪化による餌となる魚の減少であることを知る。そして、魚の減少は河川流域の農地から排出される農薬に起因していたのである。私は農学部に所属していながら農業には1ミリも関心を持っていなかったのだが、その時初めて農業と自分のやりたいことがバッチリとリンクしたのである。
すぐに有機農業について調べ、実際に有機農家を訪問したりしてゆくうちに、農家への憧れも芽生えていた。環境に負荷を与えない農業をして、カワウソのような野生動物を護りたいという思いだった。
しかし結局就農はせず、大学卒業後は建設土木コンサルタント会社に就職することとなる。非農家であった私には、農家になる方法が検討もつかなかったことと、収入面で苦労するのがありありと想像できたからである。ところが、運命なのだろうか。
農学出身だったこともあり、会社では環境を考慮した工事や、建設廃棄物のリサイクル業務に従事した。また、中国の砂漠緑化プロジェクトにも携わり、現地の環境破壊や汚染の実態を目の当たりにした。これらのことが、ついに農へ転身するきっかけとなったのである。
奈良県御所市。16年前、知り合いの伝手で中山間地の棚田に小さな荒れ地を一枚借りた。マチで育った農業の素人が、これまで誰も移住者のないムラに入ったのだ。
(つづく)
さとびごころVOL.40 2020 winter掲載
文・杉浦 英二(杉浦農園 Gamba farm 代表)
大阪府高槻市出身。近畿大学農学部卒。土木建設コンサルタントの緑化事業に勤務。
2003 年脱サラし御所で畑一枚から就農。米、人参、里芋、ねぎの複合経営。一人で農園を切り盛りする中、限界を感じて離農も検討していた時、ボランティアを募ることで新しい可能性に目覚め、「もう一度」という決意を固め、里山再生に邁進中。 2017 年、無農薬米から酒米をつくる「秋津穂の里プロジェクト」を始動。風の森 秋津穂 特別栽培米純米酒の栽培米を生産している。
連絡先 sugi-noen.desu219@docomo.ne.jp
【参照】 さとびごころ vol.35(2018autumn) 特集 農がつなぐ人と土