この記事はさとびごころVOL.45 2021 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
ワンピース
何か大きなことを達成しようとする場合に一人の力だけでは到底達成できないと日頃つくづく実感する。かつて谷林業は奈良県でも一番山守さんの多い林業家だった。江戸末期頃から平成に至るまで大勢の山守さんに囲まれながら林業家としての日々を過ごしてきた。そういうルーツがあるため、谷林業の山林は沢山の人に支えられてこそ、初めて守っていける。
そして、谷林業だけでなく大和森林管理協会は、岡橋清隆さんから「大和協は守頭(しゅっと) 会社になってもらわないとアカン」というさらに大きな課題をもらってしまった。山守さんがいなくなった林業家達の山林を預かることや、市町村の課題に寄り添いながら解決していくことが、これからも益々増えていくだろう。多くの人と協力し、助けあうことで、初めてそのミッションを達成することができる。そのためには一緒に取り組んでくれる仲間の存在が必要不可欠だ。
令和2年4月1日から始まった事業年度は、大和協にとって、とても賑やかな一年になった。実質的に私と泉先生の二人からささやかに始まった大和協は、元国会議員秘書の伊藤典明さんの大和協事務局長就任を皮切りに、大きな転換期を迎えた。予想もしなかった仲間が次々に大和協プロジェクトに参戦した。
ファイナンシャルプランナーの萩原有紀さんが短時間正社員として活動を始め、秋には牧師である鈴木ゴリさんが運営する障害児福祉事業・一般社団法人どすこいが活動拠点を谷林業陽楽森林に移した。陽楽森林は施設利用者の子供たちの毎日の活動の場になった。冬にはKUBERUという薪ストーブ販売事業が始まり、温泉事業をサポートしてくれた小島忍さんも正式に大和協の職員になり、事業マネージャーとしてのスタートをきった。顧問には、元林野庁の石田さんや、鳥取大学の家中先生、大住先生が就任してくださり、さらにアドバイザーとして建築家伊藤立平さんやエネルギーの専門家伊東真吾さん・高橋叶さん等がそれぞれの分野からサポートをしてくれることになった。
私の世代より少し下の世代で流行った「ワンピース」という漫画がある。主人公の少年ルフィが”ひとつなぎの大秘宝( ワンピース)” を手に入れるべく、海賊の頂点・海賊王を目指して冒険を始め、乗組員を増やしながら財宝のある最果ての島を目指すという物語だ。主人公はそれぞれが『自分の明確な目標』と『秀でた能力』を持った乗組員達と協力しあって強大な敵を倒し前に進んでいく。秀でた能力以外は割とポンコツで愛くるしい乗組員達だが、これだけは誰にも負けないという能力を持っている。そして、それぞれが持っている目標の達成と、主人公ルフィの夢が叶う事を重なりあい、波乱に満ちた冒険を楽しそうに続けている。ワンピースを手に入れることが自分たちの夢の実現に繋がる。その目標が共有されていることがチームワークの強さの秘訣だ。
先日、ナナツモリの田村さんが作ってくれた谷林業陽楽森林活用プロジェクトのプランの中に、このワンピースのチーム作りのイメージが盛り込まれていた。参加する関係者達それぞれが特技を生かし、目標を追いかけながら山守として自然にも人にも優しく安心で安全な社会を実現させていくというシナリオが書かれていた。田村さんはそれを「フォレストロニカ」と呼んだ。
今春も岐阜森林文化アカデミーを卒業した二人の若者が新たに大和協の仲間に加わる。それぞれの個性が活かされ、目標を達成できるようなチームビルディングが出来てこそ、その先にあるさらに大きな目標が達成できるのかもしれない。(つづく)
さとびごころVOL.45 2021 spring掲載