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【企画取材】山村の朝市 下北山村の「土曜朝市」が5年の間に創りだしたもの

この記事はさとびごころVOL.35 2018 autumnよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

下北山スポーツ公園の入口にて行われる土曜朝市。開設5 周年を祝う今年7月21日の市は、いつも以上に人が集い、かき氷や川魚の塩焼きなども出店して賑わった。

下北山村でNPO 法人「サポートきなり」が2013 年から運営する「土曜朝市」。村内で栽培された季節の野菜が並ぶだけでなく、村民同士の集いの場、村を訪れる人と村の人との出会いの場にもなっています。なぜ、どのようにしてこの朝市が始まったのでしょうか。きっかけを作ったのは元地域おこし協力隊、今は集落支援員として村で活動している渡部みなみさんでした。

渡部みなみさん 5 周年記念市にて
福島県出身。短大卒業後、二十歳で渡豪。東日本大震災後帰国し、宇陀市の山口農園で半年間の農業研修を経て、2012 年より協力隊として下北山村へ。土曜朝市の立ち上げ、村民の生活支援を行うNPO法人サポートきなりの設立に関わる。約2 年間の在豪生活を挟み、2018 年より再び下北山村へ。ライフワークとして「菌からはじまるワールドピース」を合言葉に、各地で発酵ワークショップを多数開催する。

野菜もお金も村内循環を

 下北山村では、家の近くに自給用の畑があり、自分たちが食べる野菜を自給しています。とはいえ、日常的に畑仕事をするのは高齢者世代がほとんど。働き盛りの世代は、ご近所からのおすそ分けにあずかるか、村外のスーパーや宅配で野菜を買うのが主でした。みなみさんは「村内には、自分で食べた上に人に配っても余るくらい、立派な野菜を上手に作っている人がいる。なのに、村外で野菜を買う人がいるのは、もったいない」と思いました。「村の野菜を食べたい」。余る野菜を村内で循環させることができたら、作る人も、買う人もみんなハッピー。そんなイメージが頭に浮かびました。「他にやれる人がいないなら、わたしがやります」。それが「村の美味しい野菜が買える直売所」の出発点でした。

 みなみさんは12年11月に協力隊員として村に入りました。村からの「農業をやって欲しい」という要請に応えるためでしたが、農作業には専念しませんでした。自分が必死になって一反(10アール)の畑を耕すより、村の人がちょっとずつ小さな畑を耕した方が種類も豊富になるし、村の人の生活にもプラスになると考えたからです。

 「売る場所」があれば、頑張って野菜を作るモチベーションが高まり元気になる、耕作放棄地化も防げるかもしれない。そんなシステムを作る方がよほど農業振興になる。こうした考えに、当時の役場担当課長もサポートきなりの理事長も賛同し一緒になって動いてくれました。

20年続いた「青空市」から土曜朝市へ

 直売所への出荷の協力を仰ぐことから始め、「あの人、野菜いっぱい作っているよ」という噂を聞いては一人一人に出荷のお願いをしてまわりました。どんな直売所になるのか、皆目見当もつかない中、「土曜朝市」は小さなテントを構えて13年7月、生産者16名からスタートしました。当初は、出荷量や売り上げを記録するだけで精一杯。運営システムが確立するまで試行錯誤が続きました。そこでお世話になったのが、「青空市」のお母さん方。20年の歴史があり村内で月2回、日曜日に開かれていた、「青空市」が定めた野菜の価格表を参考に値付けをしたり、袋詰めの仕方を習ったり、と色々なノウハウを教えてもらいました。

 ところが、「土曜朝市」が動き始めると「青空市」のお客さんが減ってしまい、両者の間に少々気まずい雰囲気が流れます。しかし、なんとしてもいい関係を保ちたいというみなみさんの熱意もあり、両者は話し合いを重ねました。そして、13年晩秋には、「青空市」を閉じ「土曜朝市」に一本化することになりました。これは「青空市」自身が出したこたえ。「青空市」は高齢化が進んで運営が難しくなっていたため、来るべくして来たタイミングだったのかもしれません。こうしたプロセスを経て「青空市の20年間を背負って、土曜朝市を頑張っていく」という強い決意が生まれました。

 「青空市」への出荷者も全員加わって「土曜朝市」は定着し、出荷者登録も60人近くになりました。かねてから「村内の野菜をもっと学校給食に使いたい」と声をあげていた給食センターの栄養士さんの働きかけもあり、「土曜朝市」開始の一年後には、学校給食への村内野菜の出荷も始まりました。「土曜朝市」に年間を通じて安定した野菜の出荷量があるから実現したものです。14年12月には、念願の「朝市広場」と命名された建物も完成しました。

2013 年、小さなテントひとつから始まった、土曜朝市。
朝市のまわりには、いつもおしゃべりに花が咲く光景が。
2014 年、「朝市広場」と命名された建物が完成。

一度、村を離れたからこそ気付いたこと

 土曜朝市が軌道にのり始めた頃のこと。みなみさんには、協力隊になる前に住んでいたオーストラリアに戻り永住権を更新する人生計画があり、そのためには協力隊を辞める必要がありました。「いい流れが出来てきたのに」という葛藤と、「辞めると言ったら村のみんなに嫌われる」という心配で一人悩んでいました。土曜朝市を始めて2年目、意を決し話したところ、返ってきたのは「あ、そうなん」というものすごく薄いリアクション。多くを語らずとも、みなみさんの意向をそのままに受け入れてくれる、仲間の温かさを感じました。と、同時に「わたしがいないと!」と気負い過ぎていた自分にも気づいたそうです。

 後任の協力隊員には、良いタイミングで応募があり、無事に運営が引き継がれました(現在の担当協力隊員は3代目、筆者です)。ボランティアで関わる方も増え、「土曜朝市」が自走できる運営システムが確立されました。

 そして今年、約3年間ぶりに、みなみさんは村に戻ってきました。「自分がもしオーストラリアに帰らずに村にいたら、ずっと朝市を担当し、変化がなくて面白くなかったと思う。代々協力隊が土曜朝市を運営し、メインの担当者は代わっていくけど朝市は続いていく。そうして色んな風が入って新陳代謝されて少しずつ変化していくのが理想だと思う」と話しています。

 今年7月、盛大な5 周年記念市が催されました。村内外から200名を超える来客があり、とても賑やかな一日となりました。余剰作物の循環を目的に始まった土曜朝市ですが、今では村内でお金がまわり、野菜の出荷が高齢者の生き甲斐の創出にもなっています。この場を通して村内外の人の関わりも生まれ、村民にとってなくてはならないものになりました。「帰ってきてからの今が一番楽しめている」と、今も土曜朝市にはみなみさんの姿があります。

5 周年記念市のようす。かき氷、あまごや鮎の塩焼き、みなみさんと筆者、地域の子どもたち。

寄稿 小野晴美さん(下北山村地域おこし協力隊 NPO 法人サポートきなり)

さとびごころVOL.35 2018 autumn掲載

さとびごころ企画記事

サポートきなり

下北山

下北山村地域おこし協力隊 NPO 法人サポートきなり

土曜朝一

小野晴美

渡部みなみ

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