この記事はさとびごころVOL.44 2021 winterよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
そうだ現場に出よう!
昨年の秋から約1年半、森林施業プランナーや森林総合監理士の資格試験を受ける為に、ウィークデーは毎朝勉強してきた。その結果、両方の試験の一次試験を突破することができた。試験に合格し、一歩前進できる喜びを感じながら、次のステップでは実践的に多くの事業地を作り林業に取り組む意欲を持つ山守候補生と森林所有者をつないでいくぞと意気込んでいた。
にも関わらず、その矢先に農林中央金庫森力助成金申請のため事業計画収支計画書の作成を目の前にして見当がつかず、頭がフリーズしてしまった。たったA4一枚の書類をつくることが出来なかったのだ。1年間かなりの時間を使って勉強してきたのに、実践で通用しないという現実はショックだった。
それでも、山主の方々や泉先生、岡橋さんからバトンを受けた手前、何とか仕上げないといけない。
まずは、必要な資料を取り揃えた。森林資源の状況に応じて作成された森林計画図や、権利関係を示す公図等の図面を揃え、そこに森林簿等を使い森林所有者名を調査し、書き入れた。そこに岡橋さんが踏査してくれた作業道の線形を書き入れ、大体の計画作業道距離はどの位になるかを机上で計測した。次に間伐対象地を仮決めし、作業道から集材できる面積や、やむを得ず伐捨て間伐をする面積はどの位かをGIS(地理情報システム)を利用して算出した。集材間伐対象地の面積が出たことにより木材生産材積を試算し、計画書作成の基礎になる数字を算出した。
この過程で自分一人ではお手上げになってきたので、GISの使い手である谷林業職員の琴原章弘さんや、作業道開設の経験を持つ前田駿介さんにヘルプをお願いした。面積や距離、補助金収入額を出す際には琴原さんのGIS技能や補助金の知識が、経済的な収支の積上げには、前田さんがまとめてきた実績数値がとても役にたった。そして森林施業プランはなんとか助成金の申請書として提出できるレベルまで、仕上がった。前田さんと琴原さんが谷林業に入社してから約10年、二人の職員は私の想像以上に成長したなと感心し、感謝した。
二人に助けられ申請書はなんとか提出できたが、色んな意味で自分の現場感が鈍ってしまっていることを痛感した。それもそのはず、私がチェーンソーを持ち山林作業を始めたのは平成19年。その後、平成24年位までは作業道開設や素材生産作業に取り組んでいたが、職員が増えバックアップ部隊に回って以来随分長らく、現場から遠ざかってしまった。歳もとった。体重も当時よりずいぶん増えた。
社会的な立ち位置は広がったが、肝心の現場では全く使い物にならない自分がいた。さらに一緒にスタートアップしたチームメンバーも多くは会社を離れ、私の周囲には実働のチームがなくなっていた。
「絶好調だね」という泉先生の言葉に象徴されるように、大和協は次のステージに駆け上がるための責任のある立場に立ちつつある。複数の市町村や山林所有者の期待も背負うことになった。ここで、「現場」と育成した「山守」をマッチングすれば、色々な突破が現実になってくる。そこで大事なのが現場も事務も出来るフォレスター人材だ。まさに自分が幾人かの人に押し付けようとして結局成し得ず、押し付けた人が出来ない事を責めてきたが、結局自分が出来ないという情けない現実。もはや、自分の力で切り拓く義務が私にはある。そのためには、現場に出て、改めて経験を積み上げるしかない。髀肉之嘆(ひにくのたん)という言葉があるが、そんな状況に甘んじている場合ではない。自分が心身共に真のフォレスターになる覚悟を決めて、もう一度現場に出よう。前回より多少なりともバージョンアップした自分で挑んでみたい。 (つづく)
さとびごころVOL.44 2021 winter掲載