この記事はさとびごころVOL.44 2021 winterよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
前号では、
①山を流れる川、健康な川とは
②河川の堰堤や道沿いのコンクリート擁壁の影響
をお伝えしました。それに続く今回にて、いよいよ最終回となります。
③土中環境の悪化による植生への影響
U 字溝脇の硬く締まった土壌においては、植物は根っこを張ることが出来ません。
杜甫が詠んだ「国破れて山河あり、城春にして草木深し」にはとても程遠く、草木の根っこは表層わずか10㎝、良いところでも20~30㎝あれば良い方でしょう。この草木の根っこで支えている斜面が崩壊する事象が土砂崩れです。
今年の夏は日照りがすごかった為、山では沢山の松やナラが枯れています。松枯れやナラ枯れの原因は、虫だとされていますが、根本的には樹液を巡らせる事が出来ないほどに弱った樹勢が問題です。
樹液が巡らない原因は、U 字溝脇の締まった土壌により呼吸出来なくなった植物の根っこにあります。実際に、大地の通氣浸透水脈施工した場所では、ナラ枯れや松枯れから回復出来ています。
新潟市は松枯れ対策で通氣浸透改善に公共予算で実証実験していますし、福島県三春町の福聚寺では、松枯れもナラ枯れもどちらも回復しています。
④根っこがよみがえる
大地の再生で主な活動をしている庭作りに比べて、土砂崩壊は非常に繊細で高い技術力が求められる現場となります。大地の再生ライセンス講座中級の筆者では太刀打ち出来ない場所も多数あります。
しかし、大地の再生ネットワークは、日本全国津々浦々に広がっており、師匠である矢野智徳さんや別流派の高田宏臣さん(NPO法人地球守代表理事)を含め、いろんな人の知恵や技で力を合わせて乗り越えることができる体制が確立しています。
いつの日か、この国の河川がいつでも清冽な水を湛えているように。河川が清冽なら、海も綺麗になり魚介類はじめ全ての生き物たちが蘇るでしょう。その日が来るまで、ひとつひとつ現場をこなしていきますので、どこかでお会いしたときは宜しくお願いいたします。
※編集部では、いつか奈良県内の現場における大地の再生の事例を紹介する予定です。自然を壊すよりも調和を取り戻して再生する取組みに、どうぞご期待ください。
さとびごころVOL.44 2021 winter 掲載
寄稿 西尾 和隆(環境再生活動家)