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山と今日から始まる物語 #02

この記事はさとびごころVOL.38 2019 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 

森林林業の現在

 令和の時代が始まった。森林経営管理法の施行や国有林野管理経営法が国会で議論される等、我が国の森林林業政策は大転換期を迎えている。

 現在日本の森林には、有史以来過去最大の森林資産が蓄積されていると言われている。江戸時代の鎖国下の日本では、森林資産は余すことなくフル活用されていた。煮炊きも、暖をとるのも、建物を建てるにも、森林資産の恩恵を受けてきた。それ以来、明治、大正、昭和と日本人の生活は森林資産の循環サイクルをとても上手に利用してきた。日本人は自然と共に生きてきた。社会のニーズと森林資産の循環サイクルに上手に折り合いをつけながら付き合ってきた。江戸時代には森林資産を始めとする自然資産だけで現在の4分の1近い3000 万人もの人口を養うことができた。見方を変えると現在も4人に1人は当時に近い生き方を選択出来るともいえるが、現代人の私には容易に想像できない。

 当時は、森林の生産力に対し利用過多気味であったため、今ほど森林内には資産は蓄積されてこなかったようだ。戦時中に、森林資産はエネルギーとして利用されるため大量に伐採された。戦後の復興と共に大きな労力をかけて、伐採された森林への造林がなされていった。時を同じくして化石燃料が我々の生活に取り入れられた。その結果、森林内にある資産は、利用される機会を失い、温存され、有史以来過去最大と言われる充実した蓄積が常時森林内に存在する状態に導かれていった。

 その充実した資産に目を付けたのが産業界である。林業を地方の経済活性化の切り口にするという。その影響を強く受けた森林林業政策は、大規模な製材工場やベニヤ、集成材工場、バイオマス発電所等を各地に開設する等、国産木材の増産を強く求める方向に向かっている。一部の地域では林業は儲かる産業だと言われ、林業と呼ばれる産業の内、素材生産業(成長した立木を伐採して、搬出する事業)者に脚光が当たっている。木材産業にとっても、国産材が大量増産され、安定供給が叶えば、それぞれの事業にとって好都合だ。だから、大伐採に歯止めをかける声はあがりにくい。一歩間違えたら、せっかく積み上げてきた森林資産を一気に伐採してしまうのではないかという恐れも感じる。

 善意か悪意かはともかくとして、誰も気付かぬ間に資産が取り崩されてしまう現実が目の前にある。無策に伐採されてしまえば、戦後70年間の積上げは、元の木阿弥になってしまうかもしれない。木材産業界は、一時的に潤い、数値的にも結果が出てくるので数年は活況を呈するだろうが、もう少し長いスパンで考えた場合に失敗だったなとなってしまいかねない状況にある。我々旧家には何世代かをかけて永年貯めてきた資産を、一世代で使い果たしてしまうという話があるが、そんな話に似ている。

 森林資産が取り崩されると、単純に資産がなくなってしまうだけでなく、大規模に伐採された裸山は土砂災害を引き起こす等、結果シワ寄せは森林の所在する地域に及ぶ。

 明治以来、社会の構造は産業、教育、福祉、色々な分野に縦に分かれ歩んできた。それが上手くいく秘訣だった。今までの前提では立ち行かなくなる時代になってきた。力の集まりやすい産業界というセクターの見方だけではミスリードされる可能性が高い。多面的な観点から考えていく事でより良い解に辿り着けるのではないか。

 有史以来最大の森林資産の蓄財が出来た今、その資産をいかに運用していくかが、より良い選択をする千載一遇のチャンスだといえる。これを運用し、豊かな循環サイクルを創り上げるのも、資産を意図なく取り崩すのも、活かすも殺すも森林林業関係者の選択次第。森林はどうあるべきなのか。社会はどうあるべきなのか。人はそこにどう介在していけば良いのか。

 世界最高峰の吉野林業の流れをルーツに持つ我々大和協は、この資産を最大限に活かしきれるようなシステムを創り出すことを肝に銘じ、活動していきたい。かつての日本人が創り上げた自然が生み出す力をしっかり理解し、自然に寄り添い、最大限に活かしながら生きていくシステムの現代版を創り上げていく事に一つの答えがあると考えている。

さとびごころVOL.38 2019 summer掲載

文・谷 茂則(一般社団法人大和森林管理協会)

さとびごころ連載

一般社団法人大和森林管理協会

谷 茂則

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