この記事はさとびごころVOL.38 2019 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
前号に引き続き、天川村で始まった皆伐跡地の再生に挑戦するプロジェクトのその後をお伝えします。
事業採択の結果が届く
2018年7月末のエントリーの後、秋には計画の詳細について文書で質問が投げかけられ、11月には現地審査が実施され、収支計画などの詳細な審査を乗り越え、12月に事業採択の結果が届きました。駆け込みでのエントリーのうえに、秋の厳しい審査の対応は大変だったので、喜びはひとしおでした。ただ、誰も経験したことのない広葉樹の森造成とあって、不安がいっぱいのスタートです。せっかく事業採択されたのですから失敗はできません。
天川村フォレストパワー協議会が事業採択されたことは新聞でも逸早く報道されました。全国で90件の事業のエントリーがあった中の5件に選ばれたとのことで、みらい基金から期待される当該事業の責任も強く感じました。
驚きのラブコール
先ず驚いたのは、県の研究分野統合本部からのラブコールでした。研究分野統合本部とは県の産業、薬務、農林などの試験研究機関が横の連携でプロジェクトを組み、新たな産業創出に寄与しようというものです。そのメインが奈良伝統の生薬を活用した産業の活性化であり、天川村で我々が目指すところがこれと合致したため「共に頑張りましょう!」というラブコールが届いたのです。
当初の計画でも苗木の生産などの技術的な支援は奈良県森林技術センターから受ける計画でしたが、育てる資源から多様な地域産業を創出するためのアドバイスや情報提供をいただける状況になり、プロジェクトは益々力強く前進することになりました。
種子の精選からスタート 手がスベスベに
農林水産業みらい基金事業の実施は暦年で行われます。夢見た事業がいよいよ今年1月からスタート。ポニーさんが昨秋に県内で採取されたキハダの果実から果肉を取り除いて種子を精選する作業から取り組みました。数日間水に浸しておいた果実を指先で潰し中の種子を取り出す作業で、冷たく根気のいる作業ですが、一日の作業を終えた自分の手がスベスベになっていることに驚きました。どうやら、キハダの果肉には保湿成分があるようで、天然成分のハンドクリームなどへの活用も考えられます。キハダからは陀羅尼助の原料となる中皮を収穫することが最大の目的ですが、木部や外皮、葉、果実など全てを活用し地域産業に育てる夢は益々膨らみます。
2年先の植林を夢見て
春を迎え、いよいよ種播きです。育苗箱と畑への直播の種播きを4月上旬に行いました。まだかまだかと待つこと三週間、漸く可愛い芽が出てきました。精選した種子で概ねの発芽率を観察したところ約7%程度とかなり低い成績だった一方、果肉を完全に除去していない種子でもかなりの数が発芽したので、今後の種播きを考える上で、今回の経験は大変参考になりました。
この芽を苗木に育て山に植林するのは2年ほど先になります。
文・杉本和也 奈良県森林総合監理士会 代表
さとびごころVOL.38 2019 summer掲載