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山と今日から始まる物語 #05

この記事はさとびごころVOL.41 2020 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 

現代版の山守を考える。

 思わぬ山守宣言だった。先日の明日の奈良の森を考える学習会の講演の中で講師の岡橋清隆さんが「これからの人生のテーマとして、私は、山守になる。」という趣旨の発言をされた。岡橋清隆さんと言えば、奈良県を代表する大山林所有者岡橋家の次男に当たる方。大旦那岡橋家の岡橋清隆さんから唐突に飛び出した山守宣言は、聴衆の心に大きなインパクトを与えた。大旦那が山守になる。かつてであれば、考えにくい画期的な事である。何故岡橋さんは、その様な宣言をしようと思ったのだろうか。

 岡橋さんは自身の人生の長い時間を、花盛りし吉野林業とその台骨を支えてきた山守さん達と過ごされた。幼少期、岡橋家で正月に行われる山守の集まりの際、座敷に大勢の山守さん達がずらっと並び、その一番中心に岡橋さんのお父さんである岡橋清左衛門さんが君臨する光景は実に華やかで、自分もその中心に座ってみたいなと幼心に思われたのだという。

 岡橋さんが幼少期に接した山守さん達は、私からすると祖父の世代。私のイメージの中にある父親世代の山守さん達も華やかなイメージがあるが、吉野林業の最盛期を経験した祖父の世代の山守さん達は、それ以上だったのだと思う。父親世代の山守さん達は、平成七年に起こった阪神大震災や平成九年に吉野地方を襲った台風をきっかけにした吉野の林業・木材業界に起こった不況に元気を失い、華やかさに陰りが出た。それに続く私の世代の山守さんは林業を引き継ぐ人の数も少なく、未来を切り拓く活気を産み出しにくい現状にある。

 祖父や父親の世代の林業関係者の話の中に出てくる山守さん達は、山づくりに対するプライドを持っていた。そして、その姿勢を吉野の木を高い価値で買ってもらう事で、世の中にもきちんと評価してもらえた。結果、地域に対する責任感や山を次の世代に引き継いでいくという強い思いを、何の疑いもなく持っておられた。そして、脈々とした五百年とも言われる吉野林業の歴史を繋いできた。

 そんな吉野林業の歴史の連綿たる継承を実現できたのは、山守さん達が数世代かけて皆で創り上げた、地域を地盤にした人と自然環境の繋がり、世代を超えた人と人との繋がり、地域、領域を超えた人と社会環境との繋がりがあったからだ。空間軸、時間軸、領域を超え自然環境を活かしきる複雑で見事な社会システム。そのシステムは、山守という森林や地域を経営する経営者を中心に、成立していた。

 システムというのは面白いもので、上手くいっている時は飛ぶ鳥をおとす位の勢いを持つが、上手くいかない時は脆いもので、一気に機能不全に陥る。システムの主体者が健全ならシステムは復活するかもしれないが、吉野林業システムの主体者山守の存続には本格的な危機感が出てきた現状にある。

 岡橋さんは、吉野林業システムの最盛期を過ごした山守さん達と接し、かつての華やさを知っていて、陰りだしたシステムの復活を期すべく、自身も作業道づくりに人生を賭けてきた。花盛りし吉野林業を、次世代に引き継いでいきたかったし、それだけの努力をしてきた。それなのに、現実の吉野林業は衰退し、機能不全に陥った。システムの復活を期すべき主体者たる山守さんの後継者事情は、この先の継続性に大きな課題を残す。

 山守制度の現状と今後を考えた時に、新しく吉野林業の山守の後継者を育てなければならない。今やらないとシステムは完全に死んでしまう。そう直感で感じられた上での宣言だったのではないかと思う。旦那衆にはでしゃばらないという奥ゆかしさがある。「その率先者に俺がなるから着いてこいよ」、奥ゆかしき旦那衆の出身としては、複雑な思いから出た宣言だったと思う。

さとびごころVOL.41 2020 spring掲載

文・谷 茂則(一般社団法人大和森林管理協会)

さとびごころ連載

一般社団法人大和森林管理協会

谷 茂則

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