この記事はさとびごころVOL.28 2017 winterよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
片上醤油、片上裕之です。今回は第2話。醤油の原料、特に小麦についてお話しします。
醤油の原料は?ってお聞きすると大豆!、塩!。えっっと?…って感じで小麦が出ない方が意外に多いです。小麦が使われていることは知っていても、副原料や増量材のように思っている方も中にはいらっしゃいます。
大豆は豊富なタンパク質を含みますので旨味の源泉として不可欠なものです。JAS 法でも、醤油の定義の中に大豆使用が謳われていて、大豆を使用しないものは醤油を名乗ることができません。こいくち醤油に含まれる旨味の75% は大豆から来ます。残りの25%は小麦から来ます。旨味調味料の原料として小麦の存在も無視できないことが分かりますが、さらに醤油は香りの調味料でもあります。香りの成分の多くは酵母や乳酸菌が発酵することで生まれます。乳酸菌や酵母の発酵のエネルギー源、ご飯としての役割を担っているのがデンプン質豊富な小麦です。でも、なぜ小麦なんでしょう?
小麦でなくてはならない理由は…醤油屋の先輩たちはいろんな原料で醤油を作ってきたのですが、結局、「色々やってみたけど小麦を使った醤油が一番美味しかった」ってことです。米や大麦、裸麦でもちゃんと発酵しますが、あの醤油特有の香ばしい食欲をそそる香りは小麦を使わないと出ないのです。小麦のそれもフスマ(種皮)に含まれる微量な成分が、醤油独特の香りに不可欠なことが分かっています。
小麦は室町時代以前は希少なものでしたが、江戸時代に二毛作で豊富に栽培されるようになり、江戸初期に小麦を使ったこいくち醤油、うすくち醤油が考案され、それが一気に普及しました。だから小麦って副原料でも増量材でもなく、大豆同様大事な主原料なのです。
さとびごころVOL.28 2017 winter掲載