この記事はさとびごころVOL.45 2021 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
日本の農業は、家族農業が主体だ。家族農業と対置するのが企業による大規模農業である。近年農業のグローバル化や大規模化が注目されがちだが、今の家族農業のような小規模形態が世界の農業の85%を占め、人類の食料の80%を生産しているという。大企業による収奪型農業は環境破壊、作物価格の乱高下、種子の独占などの負の側面がある一方、2018年に国連は「家族農業の10年」のなかで、家族農業が環境保全、貧困撲滅、文化継承などに貢献していると提唱した。里山には家族農業に代表される小規模農業こそが必要だ。一人農業もまた最小単位の家族農業だと意地を張りたいところだが、以前にのべたように一人でできることはたかが知れている。
酒米の水田に集まったのは酒蔵の社員のほか、酒販店とそのお店の常連客の方々だった。米作りをするとはわかっていても、具体的な作業工程はもちろん、この山裾の棚田でなにが始まるのか検討もつかなかったに違いない。当の私自身が、ほぼ勢いでとりあえずスタートしているわけで…。始まりの挨拶もたどたどしく、全員の様子もよろよそしく探るように田植えを始めたのを覚えている。
田植えが始まると一転、緊張の糸がほぐれるように歓声や悲鳴が響く。棚田の小さな発見に嬉々とする参加者を見て、このようなボランティアが果たして成立するのかという不安は一掃された。里山には人を魅了する力がある。このイベントは今年で5年目を迎える。毎年参加者が増え、3年目には100名に達した。恐縮な話ですが、私にとって参加者の皆様は家族農業の一員なのです。
最後に書き留めたい。農園のマスコットのポン太が今年1月24日に永眠しました。動物園から里親として引き取った高齢犬は、農園に集う人々に癒しを与えて、自然豊かな里山で幸せな生涯を閉じました。彼もまた農園の大事な家族でした。
さとびごころVOL.45 2021 spring掲載
文・杉浦 英二(杉浦農園 Gamba farm 代表)
大阪府高槻市出身。近畿大学農学部卒。土木建設コンサルタントの緑化事業に勤務。
2003 年脱サラし御所で畑一枚から就農。米、人参、里芋、ねぎの複合経営。一人で農園を切り盛りする中、限界を感じて離農も検討していた時、ボランティアを募ることで新しい可能性に目覚め、「もう一度」という決意を固め、里山再生に邁進中。 2017 年、無農薬米から酒米をつくる「秋津穂の里プロジェクト」を始動。風の森 秋津穂 特別栽培米純米酒の栽培米を生産している。
連絡先 sugi-noen.desu219@docomo.ne.jp
【参照】 さとびごころ vol.35(2018autumn) 特集 農がつなぐ人と土