この記事はさとびごころVOL.30 2017 summerよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
片上醤油、片上裕之です。今回は第4話。前回は醤油の種類の話でした。私どもがもっともよく受ける質問に「こいくち と うすくち はどう違うの?」っていうのがあります。
こいくち醤油は1620年に江戸近辺で考案されたとされています。第2話で小麦が大事な役割を果たしているというお話をしましたが、原料を大麦から小麦に代えて従来にはない香り高い醤油ができ、これが江戸のみならず、各地に広まったものと考えられます。うすくち醤油は1667年兵庫県たつの市で考案されました。ヒガシマル醤油さんのHP によると、竜野藩のお殿様が醤油業、それもうすくち醤油を奨励し、それがのちに精進料理や懐石料理に重宝され、京都を中心に広まったとされます。江戸後期のお殿様は京都所司代に任ぜられたとき、トップセールスで京、大阪に広められたそうです。脱線ですが、今の知事さんたちにももっと地元産品のPR、販売に頑張って頂きたいような気になってきました。
こいくち醤油とうすくち醤油の違いは色と香りにあります。関東の食文化って一言でいえば「かば焼き文化」。甘辛く、醤油の匂いの大好きな、いろんなものを「醤油味」で食べたいという、醤油大好き人間が望んだ醤油がこいくち醤油と言えます。うどん、そば、てんぷら、江戸前寿司、お刺身など、醤油と醤油味なくしては成り立たない江戸の嗜好にドンピシャにはまったのがこいくち醤油です。色が濃いのも「しっかり醤油味が効いている」ことが好ましい人たちには長所になります。
半面、うすくち醤油は、京の精進料理や懐石料理など、食材の味そのものを引き出し、楽しむような料理に向くように、色が淡く、香りも抑えたものになっています。ここで大事なことは決して旨味が薄いわけではないことです。しっかりと出汁を引き、豊かな旨味があってのうす味料理であって、水煮ではありません。うすくち醤油の使い方には「いかに少なく使うか」というものがあります。塩分が高めなのもそのためでした。過去形でいうのは最近のうすくち醤油、以前ほど塩辛くないし、実際塩分も下がってきています。こいくち醤油に劣らない旨味を持つものもあります。旨いうすくち醤油はまだ数えるほどしかありませんが、そういったうすくち醤油は冷奴、白身のお刺身などに使うと新しい味わいを楽しませてくれます。弊店の淡色天然醸造醤油も頑張っていますので、よろしくお願いします。
さとびごころVOL.30 2017 summer掲載