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ルチャ・リブロ的土着人類学研究室 第2回 青木真兵

この記事はさとびごころVOL.33 2018 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。

 

 東吉野村に引っ越して丸二年が経ちました。夏は比較的涼しいのですが、冬は人生で経験したことがないほどの寒さに震えています。高い所からしたたり落ちる水は例外なくつららとなり、朝は水道が凍っていない方が珍しい。そんな毎日。埼玉県南部で育ったぼくにとって、こんな経験はもちろん初めて。でも全てが新鮮!だからハッピー!というわけではありません。正直不便だし、単純にむっちゃ寒い。でも「ちょうどいい」。

 ぼくらは東吉野村へ「引っ越してきた」と思っていたのですが、雑誌などでは「移住者」としてカテゴライズされます。なぜわざわざ移住なんて言葉を使うのかしら。最初は不思議でした。移住と引っ越し、何が違うんだろう。地方創生を掲げる国と地方自治体、広告代理店がタッグを組んで移住を推し進め、そのおこぼれを末端のものが享受している。負の側面に目を向けるといろんな話も聞こえてきますが、今回はそういう話ではなく、もうちょい本質的な話をしたいと思います。

移住と引っ越し、
     何が違うんだろう
移住と引っ越し、
     何が違うんだろう

 今年の初め、朝日新聞の奈良県版にぼくたちの記事が載りました。取材してくれた若き記者、加治隼人さんとのお話がとても面白かった(この模様はぼくたちが配信中のインターネットラジオ「オムライスラヂオ」で聴くことができます)。加治さん曰く「移住者は話が長い」とのこと。だから悪いとかめんどくさいとかではなくて、多くの若者は明確な理由を持って村に越してきたわけではない。だから本人たちも「いきさつ」を語るほかない。そのために話が長くなってしまうとのことでした。

 そもそも移住という言葉は単にどこかに移り住むことを意味するのではなくて、言葉も食べ物も植生も習慣も違う「外国へ移り住むこと」という意味が含まれています。ぼくたちの村への引っ越しを移住と呼ぶ背景には、現代において村という不便な場所にわざわざ移り住むことが、全く価値観の違う土地への移住と同一視されている。ぼくはそんな風に思っています。では現代の価値観とは何なのでしょうか。

 今年はちょうど明治150 周年。明治時代は日本の「近代」の幕開けです。近代化の特徴は全てを「共通のもの」にしていくことでした。同じ言語、同じ習慣、同じ価値観を持っている人が日本国民であり、その意識を高めることで国を強くする。富国強兵です。一方このベクトルを経済に当てはめた場合、あらゆるものが「商品化」され始めた時代だと言えます。イギリス近代史の研究者である川北稔氏は、近代化の大きなポイントの一つに「都市」を挙げ、以下のように述べています。

都市的な生活環境は、人びとの生活が「自給」から「購入」へと転換することを意味しています。このプロセスは「万物の商品化」ともよばれていますが、現在もなお強烈に進行しつつあるプロセスです。農村で家族や地域共同体|| 具体的には教区でしょうか|| がもっていたものやサービスの自給機能は、裏山で拾ってくる薪から、子どもの衣服、保育や介護のサービスにいたるまで、あるいは出産から葬儀にいたるまで、すべて家族や近隣で「自給」されるのではなく、「商品」として購入する必要が生じます(川北稔『イギリス近代史講義』講談社現代新書、2010 年、81頁)。

 今までは家族や近隣で「自給」されてきたものが、「購入」というプロセスを経るために、「商品化」されていく。これがあらゆるものを画一化しようという近代化の大きな特徴です。全てを購入対象とする。全てを商品と考えるというこの考え方こそ、ぼくは現代の価値観のベースにあると思っています。そして人が商品を選ぶ時の一般的な基準は、他と比べて新しいかどうか、違っているかどうか、です。

 一方の「自給」は、必要なものを必要なだけ作ることを意味します。基準は「ちょうどいい」かどうか。それは家族や近隣の人口の多さ、そこが山なのか海なのか、土地の肥沃さによっても異なるし、季節によっても違ってきます。極論を言うと、「ちょうどいい」かどうかは本人(ないし家族)にしか分からない。

 移住者が周りから理解されないのも、語りだすと長い物語を持っているのも、自分にしか分からない「ちょうどいい」を基準に住む場所を決めたからだと思います。インターネットで一覧可能な商品を選ぶように、駅からの時間や築年数、間取りの広さといった比較可能なポイントを合算して、その一位に「引っ越し」たわけではないんです。

 ぼくはこれからの時代、購入できるものから選ぶのではなく、自分の「ちょうどいい」を求めて生きる「自給マインド」の重要性がますます高まると思っています。その萌芽は実は違和感にあります。違和感から目を背けず、決して愚痴に逃げ込まないこと。違和感を他人と共有できる形にすること。

 人文系私設図書館ルチャ・リブロは、みなさんと一緒に「自給マインド」を涵養する場でありたいと願っています。

人文系私設図書館Lucha Libro
人文系私設図書館Lucha Libro は東吉野村で活動している小さな私設図書館です。
川のせせらぎを聴きながら、ゆっくり本を読んでみませんか?
開館日:Blog、Facebook にておしらせ
開館時間:10:00-17:00
HP: http://lucha-libro.net/
所在地:奈良県吉野郡東吉野村鷲家1798(天誅組終焉の地石碑スグ)

さとびごころVOL.33 2018 spring掲載

文・青木真兵 人文系私設図書館Lucha Libro キュレーター

さとびごころ連載

ルチャ・リブロ的土着人類学研究室

人文系私設図書館Lucha Libro

青木真兵

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