この記事はさとびごころVOL.41 2020 springよりの転載となります。内容は掲載当時のものです。
今回は「壊れない道づくり」をとおして、林業と山村地域の活性化に熱心に取り組まれている岡橋清隆さんのお話をお聞かせいただきました。清光林業の山林を自分達の代で担い始めたとき、道の崩壊など色々なつまづきを経験された後、篤林家大橋啓三郎氏に師事され、壊れない道づくりと林業経営について学ばれました。
その後、自社森林で長年実践経験を積まれ、その技術が揺るぎないものとなった今、全国の(国境を超えることも)山村にその技術の啓発に飛び回っておられます。氏の持続可能な林業に対する思いを伺い、深い学びを得ることができました。
「壊れない道」とは?
壊れない道とは、単に頑強な道という意味ではなく、森林の地形、地質、気候、植生、水の流れなどを総合的に考慮し、支障木として伐採した木や、後々生えてくる植物等をも活かしながら作られるもの。自然の摂理に沿うことで崩壊などの災害発生を抑止し、大型の機械を入れないため山地への負担も少なく自然にやさしい道です。
一度開設すれば、ほぼ永久に使えるので、長期的で持続可能な森づくりが実施でき、伐採木は先端まで無駄なく搬出することもできます。また、過酷な林業労働の軽減や、労働安全への寄与のほか、消費者が立木を見て買えるなど、経営面でも多くのメリットがあります。
吉野林業の現状
日本で一番、いや世界で一番の林業地とも言える「吉野林業地」、この林業地をここまでに育て上げたのはこの地特有の「山守(やまもり)制度」だ。
都市部に住む檀那(だんな)が、山村に所有する山林に投資しする。その投資は山守によって森林管理と育成に効果的に活かされ、付加価値の高い木材を生み出す山林経営が持続的に行われてきた。その西暦1500 年くらいから営々と営まれてきた吉野林業が今、危機に瀕している。
吉野林業は城郭など建築用材に始まり、樽丸生産や高級内装材など時代のニーズに合った木材を供給してきた。集成材の柱の外側に薄い吉野材を貼り付けることで高級吉野材の柱が大量に生産できる単板(フリッチ)が飛ぶように売れた時代が吉野林ブランドの最高潮であったが、その後、建築様式の急激な変化により材価は急落、収益は激減し、木を伐って植えるという本来の林業が成り立たなくなった。
現在、吉野で木が生産され流通しているのは、先人の育てた資源を収穫しているだけ、しかも、運賃の高いヘリ集材に頼り続けており、高く売れる元玉、二番玉(根元付近10m弱)しか搬出されず、あと(木の3 分の2ほど)は山に捨て置かれている。これでは山守の仕事も成立せず、後継者もいないため持続可能な林業経営が営めない状況だ。
林業をとりまく社会の流れ
一方で、社会には林業を目指す人たちが徐々に増えつつある。IターンやU ターンなどの若者達だ。それらの若者達を林業に迎え入れる支援策も講じられている。「緑の雇用」や「地域おこし協力隊」の制度だが、林業事業体は「緑の雇用」の支援(3 年間の給与の一部とOJT 経費)を受けてい間は雇用もできるが、それが切れる四年目以降には給料を支払えなくなるというケースも少なくない。地域おこし協力隊も、三年後に地域で起業し自立することが求められるが、なかなかハードルは高い。
林業を目指す若者は、「環境保護に役立ちたい」「山村でのんびり暮らしたい」「木を伐る作業が好き」「緑の中で働きたい」など思いは様々だが、各地を巡って感じるが、概して彼らは純粋であり取り組みも熱心だ。これらの若者がなんとか山村に定着して生活できる林業が築けないかと模索している。
林業事業体など会社経営として林業を維持するには、どうしても大規模な事業展開が必要になる。高価な林業機械に投資し、それを回収するために行われる大規模な伐採などが通常の流れだ。木質バイオマス発電も木材流通を増やすべく展開されているが、FIT が切れたらどうなるか。間伐材の代替えで徐々に増えつつあるヤシガラの輸入という本末転倒の流れに加え、この拡大が熱雨林の破壊に及ぶ可能性も危惧される。発電所のハード部分の寿命もあり懸念材料は多い。
今の日本の林政の流れは国産材の生産量を増やそうと躍起になっている印象が強い。各地で積極的に展開される皆伐は、本当に森林として再生できるのか甚だ疑問である。
林業はどう生き残るのか
さて、それでは林業はこれからどう生き残るのか。地域性にもよるが、吉野のような地域では大規模な高性能林業機械を必要とする林業では持続性に大きな不安がある。壊れない道づくりを中心に行う自伐型林業なら初期投資は格段に小さく、何より森林に優しい施業ができる。
これは、林業を目指す若者達が目指す方向に合致する。しかし、林業だけで十分生活が確保できるかというと経済面では不安もある。そこは簡単ではないが、副業を組み合わせるなどの工夫で乗り越えることも考えないといけない。
木材需要として、工業製品ではない「活きた木材」を求める人も徐々に増えつつあり、この需要は無くならないだろう。製材や乾燥、ストックなど自伐型の個人の規模では難しい部分もあるが、自伐型を営む者が共同でこれらを運営できる組織「講」を地域で育てられれば、多くの問題が解決するのではないかと提案させていただく。
このような小規模分散型の林業が、明日の奈良の森が生き残る最善の林業だと私は考える。
講演をお聴きして:森の守り手は社会の財産
時代が時代なら、こうして酒を酌み交わして親しくお話などできる御方でない正真正銘の山檀那の岡橋さんが、山で土にまみれ林業の立て直しに取り組まれて40年。その実績に裏付けられた技術と信念にはいつも敬服させられます。
森林や、森を守る人材を自分の財産ではなく社会の財産として愛し、育て続けられているところが本当に素晴らしいと、感動しました。
さとびごころVOL.41 2020 spring掲載